第5話:復讐

「お嬢様、いよいよでございますね」


 決行前にヴァネッサが声をかけてくれます。


「そうね、ようやくこの時が来たわね」


 王都を追われて一年、ようやく復讐の時が来ました。

 カトリーヌとサロメの目を逃れるために古代遺跡の地下で暮らしました。

 ひたすら魔力の増幅と魔術呪術の習得に努めました。

 ジェラールとヴァネッサからは人族とエルフの魔術を学びました。

 幸いだったのは二人が古代エルフ語を知っていた事です。

 そのお陰で古代遺跡地下深くにある石板の召喚魔術を知ることができました。


 今こうして思い出すと、この一年は本当に大変でした。

 古代遺跡の地下はカトリーヌとサロメの魔術呪術は防いでくれました。

 ですが刺客までは防いでくれませんでした。

 度重なる刺客の襲撃には本当に困りました。

 最初の襲撃を受けた時に、馬は古代遺跡の地下に避難させることができましたが、馬車を破壊されてしまい、それ以降は地下で毛布に包まって寝ることになりました。


「では、堕天使リリアーヌを召喚して私の魂を同化させ、この手でカトリーヌとサロメを殺します。

 いえ、サロメと同じようにカトリーヌがヘネシー伯爵との不義で生んだ弟のウスターシュも、ヘネシー伯爵も一緒に殺します。

 愚かな父エヴァリストは殺す価値もないでしょう。

 フェルディナン国王やマクシミリアン王太子は無視します」


 この一年なんの救いの手も差し伸べてこなかった父や国王、婚約者の王太子には何の未練もありません。

 王国一の美男子であろうと長剣の名手であろうと、情も想いもない男とは結婚などできません、自分の結婚相手は自分で探します。


 堕天使リリアーヌを召喚した後は簡単な話しでした。

 リリアーヌの力は絶大で、全ての事を見通す事ができました。

 カトリーヌとサロメが邪悪な魔女である事も。

 ウスターシュが魔王をこの世界に召喚するための魂のない依り代である事も。

 エヴァリストには家族に対する愛情がひとかけらもない事も。


 まあ、私もエヴァリストに愛情がなかったので同じですね。

 リリアーヌとなった私は魂砕きの剣と魔滅ぼしの剣を振るって、カトリーヌとサロメをこの世界から完全に滅ぼしました。

 エヴァリストは無視してヘネシー伯爵の所に行って同じように滅ぼしました。

 妻と息子は何の関係もなかったので見逃しました。

 国王や王太子は内心を確かめる事もしませんでした。

 そんな気にもならないくらい興味がなくなっていました。


「お嬢様、いかがでございましたか」


 ジェラールが復讐から戻ってきた私に首尾を訊ねてきます。


「簡単過ぎて拍子抜けしてしまうくらいだったわ。

 でもこれで過去に囚われるのは止めます。

 これからは自分の力だけで自由に生きるわよ。

 まずは古代遺跡の地下がどこまであるのか確認するわ」


「「はい、お嬢様」」


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

公爵令嬢は婚約者の王太子に横恋慕した自称聖女の妹に呪いをかけられる 克全 @dokatu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ