第249話 舞台裏への意識

「それにしても。」


こちらの木は、切り倒しても、どうやら領都のようにはいかないようで、枝などは自分で払ったり、そんな手間がかかるようだ。

魔物はこちらも現れるのだが、深さなども関係があるのだろうか。そんなことを考えながらも、寄ってくる魔物に対処しながら、それなりの数の木を切り倒し、荷車に積み、その合間にトラノスケとミズキリによって、採取しておくと喜ばれる植物素材なども聞きと、なんだかんだと時間を使って、今はようやく町へと戻り始めているところだ。


「こう、人によって伝えられている事、その判断基準は何なんだろうなぁ。」

「何でしょうか。前世での功徳、そんな事を考えてもしまいますが、神々もこちらが誤解を招くように、いえ、隠しているつもりはないのかもしれませんが、そうなる様に話している節もありますから。」


直近の事で言えば、戦と武技の神が、異邦から招いた数、それに言及した時がそうだ。

最初と、それから年ごとに。折に触れて、その言葉がかかる場所をよく考えなければ、宴席で聞いた異邦人の数と会わないのだから。


「そのあたりは、それこそ試練と、そういう事だろうな。」

「ただで神から直接情報は得られないと、そういう事でしょうね。」

「厳しさか。それにしても、人口の上限か。納得したくはないものだな。」


そういってトラノスケがため息を漏らすが、どうやらそこにも誤解があるらしい。ミズキリはオユキがどう考えているか理解した風ではあるからと、詳細を口にしなかったが、トラノスケはそうでもないようだ。


「トラノスケさん。誤解がありそうですが、口減らしとして、貴族が誰かを害したりと、そんなことはおそらくありませんよ。」

「そう、なのか。」

「ええ、それこそ、そんなことをしたら、烙印が押されるでしょう。いえ、まったくなかったとも思ってはいませんが。」

「つまり、ああ、成程。自殺か。」


それには答えず、オユキはただ頷くだけに留める。


「全く。これまで通りに何も知らずに、ゲームの世界が現実に、そう喜んでいられれば良かったのだがな。」

「それも、神々の望むところでしょう。」


そう、少なくとも善性の神ではある、それを止めろとは望みはしないだろう。


「いや、ある程度、まぁ、こういう事を知ってしまって、それで知らぬ存ぜぬはしないさ。

 ま、たまに羽を伸ばさせてくれ、それくらいは考えるが。」

「そう言えるトラノスケさんは、素晴らしい人物だと、そう思いますよ。」

「ま、あまり肩ひじ張る事はない。とりあえずは、最初に与えられた役目をこなすのが第一だろうな。

 そのあと、追加で色々ありそうだしな。俺の方でも、色々考えることが増えたしな。」


そういって、ミズキリはため息をつく。


「話が途中になっていたがな、俺の方は、元々そう言うつもりも多少はあったが、団を興せとそう言われている。

 そこで一先ず、100人か、そこまで成長させるのが目標だな。」

「領地を得られれば、直ぐ、とも思いますが。」

「そんなに簡単ではないだろう、そう思っていたが、後押しは得られそうだな。」

「王都で、内々に進めておきますか。」

「いや、立ち上げについては、自分でやらせてくれ。そうでなければ、お前も一因とみられるぞ。」

「えっと、それも構いませんが。」

「トモエさんとの目的もあるのだろう。」


そうミズキリに窘められて、オユキはトモエに軽く頭を下げる。


「オユキさんがそれを望めば、私から否はありませんが。」

「いえ、後回しでもいいでしょう。ミズキリがそう言う以上、本当に大丈夫なのでしょうから。」

「まぁ、な。リース伯爵家、そっちからだな、まずは。」


そういって、ため息を漏らすミズキリを、トラノスケが心配げに見ている。ただ表情だけを読めば、やはり付き合いがゲームの中だけ、加えて、それこそ偶の事であったため、分かっていないことも有るようだ。


「ミズキリ、王都に行く前に、やっておいたほうが良い事は。」

「どうだろうな。領主の使える、報告機能、想像はついているだろうが、拠点にも色々ある。そのうちのいくつかでは、通信機能もあるからな。伯爵から、報告があるだろう。何をするにも、硬貨と魔石がいるがな。」

「つまり、魔物を狩れと、それに尽きますか。」

「ああ、機能の開放もそれなりに手間がかかるが、まぁ此処は既にそうなっているだろうな。」

「やはり、そういった機能はありますか。それにしても、あの制作陣がよく認めましたね。」

「お前は、あまりゲームの背景に興味を持たなかったが、調べれば色々あったぞ。

 遠距離との通信、ファストトラベル、インベントリ、そのあたりも恐らく実装済みだ。」


その言葉に反応が大きいのはトラノスケだ。


「本当か。」

「トラノスケ、お前もか。フレーバーテキストをちゃんと読め。案外、遊び心以上の仕込みがあるんだぞ。」

「いや、一応目は通しちゃいたが、その、数が多すぎる。個人じゃ無理だろ。まとめてある場所にも、そんなことは書いてなかったし。」

「そりゃ、気が付いた人間は大概伏せるさ、自分が見つけてやろうとな。それにいくつかは迂闊に喋れば、資格を失う、そういった物でもあったからな。」

「その結果が、全体進捗、恐らくあの数字はそれですが、その結果ですか。」


そうして元プレイヤー三人が揃ってため息をつく。


「そのあたり、今も継続しているのでしょうか。」


トモエにそう問われて、三者三様に考える。ただ、トラノスケが最も早くにその状態から脱する。


「ゲーム中だな、俺がそれらしき情報を見つけたのは、世界樹回りだな。」

「話してもいいのか。」

「駄目なら、それこそ神々から制止がかかるだろうさ。まぁ、あれ、中に空間があってな。」

「ああ、トラノスケさんも、入ったことが。」

「いや、無いが、オユキはあったのか。」

「その、はい。」


さてどう説明したものか、そう悩んだ時に、どこからか、しいて言えば己の影から言葉が届く。

それも恐らくこの場にいる全員に。先ほど聞いたばかりの、その声色で。今は制限がないから、そのあたりもよく話し合うようにと。


「お墨付きが出ましたね。私が疑問に思ったのは、世界を支える木、ただシンボルとしてだけ用意するのかというところでしたが。他の作品では、それこそ特別なイベントもありましたし。」

「加えて、昇れば上にと、そういう事か。」

「ええ。ただ、ファストトラベル、インベントリとなれば、空間、時もですか、そういった神の存在を確認しなければなりませんが。」

「おられるんだよ。どうにも失われた、情報として、そういう意味だが、名前だけは、古い遺跡に刻まれていてな。」

「となると、まずはその柱の復活をと、そういう事ですか。いえ、封じられているのか、他になすべきことに注力されているのか。」

「正直、そこまでは分からん。」

「にしても、二人とも、よくそんなことまで覚えているな。」


言われた言葉に、ミズキリとオユキは揃って苦笑いするしかない。これでもトラノスケに伏せていることは色々とあるわけだし。トモエに至っては、ゲームの知識は無いのだが、オユキの振る舞いで察しているようでもある。

オユキにしても、生前違和感、なんでこうなっているのか、そんなことを考えながら、二人の時間、そこでこぼした覚えもある。


「ええと、正直、ゲームの頃から、疑わしいとそう思う事は多かったので。あちこちへ移動していたのは、それを調べる目的もあったのですよ。」

「ま、主目的は、強い魔物それとの戦いだろうがな。」

「ええと、否定はしませんが、そうですね、例えば荒廃大陸。」


そこでオユキは言葉を切って、改めて思い返す。

ゲーム的、そういえば片を付けることもできるのだが、この世界を設定した、くみ上げた人物はゲームの舞台ではなく、あくまでもう一つの、まったく新しい世界、それを想定していたのだ。

その中で、プレイヤーが、異邦人として、この世界を訪れる、そうなっていたのだ。

種々のハード、ソフトの限界が存在しており、妥協はあったのだろうが、実際に成立した今となって、戦と武技の神、それが言及した招いた順序、創造神の言葉も考えれば、かつてあった妥協などは存在しないのだろう。

つまり、より忠実な、望まれた世界、そういう事だ。


「あちらに行ったとき、私はこう思いました。ただどこまでも広がる荒れた大地、ここに意味があるのだとしたら、何なのだろうかと。世界観、それの維持にあそこまで執心していた方々が、何故こんな場所をと。」

「それこそ、サーバーの性能上限とか。」

「いえ、恐らくそれすらも別けられていましたよ。途中読み込みもありましたから。他のゲームのように、バイナリ解読でも、メモリ解析でも、リバースエンジニアリングできる方がいれば、もっと世界の解析は早かったのでしょうが。」


元々プレイヤー、それも古なじみと、神の保証を得たオユキはこの際だからと、まったく気を遣うことなく話を進める。そうして、トモエを除く三人で、あれこれと話しながら、木材を積んだ荷車を押して、始まりの町へと戻る。

そうなれば、これまで通りの異邦人としあまり外側から世界を俯瞰するような発言は慎んで。

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