第130話 少年たちの進歩とオユキの模索
「うし、これで4匹。」
「何度言わせるつもりですか。」
「はい。」
2匹を同時に相手をしながら、危なげなく、常に一匹が近く、もう一匹は遠く、そういった位置取りを続けながら、機会を計り、まず一匹、残る一匹はただ突っ込んできたのを切り捨て、喜びに拳を握り締めるシグルドを、トモエが静かに叱ると、シグルドはすぐに残りの4人の元へと戻り、武器の手入れを始める。
「まったく。反省したなら、次から生かしなさいよ。」
「いや、上手くいったんだ、嬉しくて。」
「あとで喜べばいいじゃない、何も魔物がいるところじゃなくて。」
「それはそうなんだろうけどさ。」
そう言いながら、武器の手入れが一通り終わったのか、今度は武器の状態を確認している。
「なんか、強くなってきてるよな。」
「うん、まぁ。トモエさんとオユキちゃんのおかげで。」
「実際、俺らって、どれくらいなんだろう。」
「素人に毛が生えた程度、ですね。」
トモエがシグルドの疑問をばっさり切り捨てる。
「でも、丸兎にやられるやつだっているらしいし。」
「いえ、少しでも訓練を行っていれば、そうはならないと思いますよ。
それこそ、最初の頃のあなた方のように、5人がかりで丸兎一匹に30分もかかるとか、そういう状態でもなければ。
それにしても、直ぐに改善したでしょう。素振りをしただけで。」
「ああ、そうか。そうだったな。悪い、ちょっと忘れてた。」
そういって頭を下げて謝るシグルドに、トモエが少し困った顔を浮かべる。
「ちょっと学ぶだけで対処できる、そんな事ですから、忘れてしまいますよね。」
「まぁ、うん。なんかこう、相変わらず実感も薄いしな。」
「そうですね。旅が控えていなければ、グレイハウンドが近寄った時に、試してみるのもいいかと思いますが。」
「ああ、そっか。怪我してたら、大変だもんな。」
「かといってあなた達同士では、まだ打ち合いができるほどではありませんし。」
「そういや、禁止されてるけど、なんでなんだ。」
「危ないからです。寸止めできなければ、骨ぐらい折れますよ。今のあなた方同士で打ち合えば。」
「え。」
トモエがあっさり告げた言葉に、シグルドの動きが固まる。
「魔物を倒すことで、身体能力も上がっていますし、振り方もマシになっていますから。
体の丈夫さは、どうなのでしょうか。試す機会を設けていないので、どの程度成長するか、わからないんですよね。」
「そういや、受けずに避けるように言われてるな。」
「そうですね。そのあたりは、私が教える欠点でしょうね。
前提として、私達は武器で切られれば、終わり、そういう理屈の上で技を磨いていましたから。」
「なるほどなー。」
そうして、トモエがシグルドと話している横で、オユキはオユキで、近寄ってくる丸兎相手に、思い付きをいくつか試している。
これまでの受けを意識したものではなく、自分から動き、場を乱す、そんな意識で丸兎に対峙する。
直線よりも、曲線を、変わった重心の位置を意識しながら、ゆるゆると、流れるように。
脳裏に描くのは、剣舞であったり、演武であったり。
どれも舞の動きで、その中で相手に攻撃を繰り出す。
動きが大きくなった分、取り回す武器の軌道も大きくなり、操作が難しくなり、切れずに叩くことも増える。
「少し、良くなってきましたかね。」
それでも、足さばきをいちいち確認していたときに比べれば、ある程度自分で考えたように体が動くようになってきたと、丸兎が飛ぶ前に動き、飛び掛かる半ばで横合いからたたき落とし、その姿を消す。
そして、落ちているものを拾った後には、少年たちの側に戻る。
「武器、武器か。こうなると、予備も欲しいけど。」
「この町で、手入れを行ってくれるところがないのが、難点ですね。
他の方はどうしているのでしょうか。」
「ある程度稼げるようになったら、どっか行くらしいぜ。」
トモエとシグルドが、そんな話を続けているところに戻ってきたオユキはアナに捕まる。
「オユキちゃん、綺麗な動きだったよ。」
「ありがとうございます。ようやく少し馴染んできました。」
「あれで少しなんだ。」
「ええ。おや、パウ君も問題なく仕留めたようですね。」
六角棒に似た、太い木の棒を使うパウが3匹の丸兎を相手にしていたが、それも問題なく終わったようだ。
彼はすぐに収穫物を拾い上げると、戻ってくるなり、ため息をつく。
「パウ。なんかあったか。」
「どうしてもな。」
そういってパウが差し出す、太い木の棒は、中ほどにひびが入っている。
振り方の拙さもあるだろうが、彼の力によるものも大きいのだろう。
それをうまく手加減するのも技術ではあるが、今の段階でそれを求めるのはあまりに酷だ。
「ああ。どうする、お前も暫く剣使っとくか。」
「斬るのが面倒でな。」
「つっても、そんな頻繁に壊れるんだったら、問題だろ。」
「森に、固い木材があればいいのだが。」
「高いぞ、そういうの。」
二人が、そんなことを話しているが、トモエとしても、そのあたりはどうしようもない。
資源が限られているし、そもそも質のいい武器も、簡単には手に入らないのだ。
「そうですね、鉄芯の入った物であったり、そもそも総金属製も良いかとは思いますが、曲がったら直すのが大変ですよ。」
「そうか。そうだな。」
「以前話に出ていた武器を探してみるのもいいでしょう。その、戦槌などは流石に技を教えることはできませんが。」
「む。」
「最低限の理合いは教えられるでしょうが、恐らくそれだけかと。」
「分かった、考えてみる。」
「では、次を探しましょうか。」
そうして、それぞれが魔物を目標の数狩り終わると、まだ日が高いうちに町の中へと戻る。
そして、この日は少し傭兵ギルドで素振りをし、弓の練習を行った後に、魔術師ギルドに足を運ぶ。
「ついに、来てくれましたね。」
魔術師ギルド内の練習施設、そこではいい笑顔を浮かべたカナリアが、オユキ達の教師役を買って出てくれた。
「その、どうしても、最低限の武器の扱いが先になってしまいまして。」
「それは、分かってはいるんですけど。
そうなんですよね、こっちは練習しても、出来るようになるとは限りませんから。」
「以前お伺いした時に、疑問に思ったのですが、本当にそうなのですか。
神々の祝福があるので、その。」
トモエは、そこが引っかかっていたようだ。
こちらの世界では、やればやっただけ、確かに身に着くのだ。
だというのに、魔術はそうでないと、カナリアが語ることに違和感を覚えるのだろう。
「神々とて、翼ない物を飛ばしたりはできませんから。
いえ、魔術で飛ぶ方もいるんですけど、それは置いて置きまして。」
そう言うと、カナリアが咳払いをして話始める。
「研究によれば、もちろん異論もあります。ただ、主流の意見、そう思ってください。
魔術が使える物と、使えない物。その間には、生き物として、差があると、そう考えられています。
マナを扱うための器官、マナを感じるための器官、それらに該当するものが、ある物とない物。
そのように分かれていると。」
「こちらの法は疎いのですが、解剖で実証っされたりは。」
「死後の方、生前学問の発展のためと、希望された方や、一部の罪人を用いて、行われたようですが、そういった物は物質として存在しないと、そう結論が出ています。
そもそも、マテリアルではなくマナですから。」
「成程。」
「その、俺は使えるかどうかわからない物なら、剣振ってたいんだけど。」
そして、カナリアとトモエの話を、シグルドが叩き切る。
そして、直ぐにアナが彼の頭を押さえて下げさせる。
「その、どうしても、嫌なら。」
泣きそうな顔で告げるカナリアに、ひとまず試してから考えましょう、そうトモエが語り掛ける。
どうにも、魔術というのは人気がないようだ。
門番のアーサーが使う者など、尋常ではない威力が出せる物ではあるのだが、やはり使えるようになるかどうか、それが分からないというのが、原因なのだろうなと、そんなことをオユキは考える。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます