4章
第129話 旅の準備
トモエとオユキは、少年たちを連れて、商人ギルドへと向かう。
少年たちはこれまで入ったこともないと、少々緊張した様子ではあるが、今回彼達が主体で話すわけではない。
やり取りを見て、場の空気に慣れて、今はそれでよいだろうと、彼らの身を預かる教会の責任者にも、叶うならいろいろと経験を積ませてほしいと、そう言われたことでもあるし連れ歩いている。
中に入れば、狩猟者ギルドとはまた違った喧騒にあふれたその内部で、ひとまず総合受付で用件を告げる。
すると、奥まった一室へと案内され、慣れない空気に少年たちがさらに肩に力を入れて、まもなく、二人の男性が入ってくる。
「お待たせいたしましたか。」
「いえ、そんなことはありませんよ。今回の主な依頼は、私、トモエとこちらのオユキからです。
後ろの少年たちは、せっかくだから同行をと。」
「成程、私はホセ、こっちがフェルナンド。早速ですが、改めて御用を伺っても。」
「はい、狩猟者ギルドから連絡が言っていると伺っていますが、先の氾濫で得たトロフィーですね。
あちらを領都で武器に仕立てようかと。その、失礼な言い方かもしれませんが、その残りを買い取っていただこうかと。」
そう告げれば、ホセは喜色を浮かべる。
「なにも失礼な事等ありませんとも。そうですか、有難い事です。
つまり、運搬と、あなた方もそれに同行、それをお望みと。」
「ええ、武器ですから、やはり自分の目で見て、調整が必要なら、その場でお願いしたいと。」
「かしこまりました。領都の工房はお決まりですか。」
「いえ。こちらに来たばかりです。そのあたりもお任せできますか。」
そう言うと、ホセは一度深く頷き、二人に声をかけてから、一度部屋を出る。
「荷物の大きさは、どのくらいでしょう。」
その間に、フェルナンドが、話を進める。
「その、加工された後の物は見ていないので。
鹿、シエルヴォの角が丸ごと片方と、ソポルトの爪と骨、こちらは片腕から取れる物、それから頭ですね。」
「ああ、成程、門前に飾られたあれは、あなた方が。成程、それなりに大荷物ですね。
これまで、領都に行かれたことは。」
「いえ、今回が初めてです。いろいろとご迷惑をおかけするかと思いますが。」
「なに、料金がいただければ、問題ありませんとも。」
「やれやれ、お待たせしましたな。」
そういってホセが手にいくつかの剣をもって、戻ってくる。
「こちらが領都で名の売れている工房の作です。」
机に並べた剣を示しながらそう言われると、トモエが早速とばかりに尋ねる。
「抜いてみても。」
「勿論ですとも。」
「失礼。」
手近な物を手に取ると、トモエは手早く鞘から抜く。
これまでこの町で求めた物とは、一目で質が違うと、そう分かるほどのものである。
以前、トロフィーを得たときに、窓口で話、目にしたものに比べても、質が良いように思える。
「その、失礼ながら、以前こちらで領都の物と見せていただいた物とは、違うように思いますが。」
「後程、その時の担当者を教えていただけますかな。
さておき、こちらは素材に魔物から得た物を扱える、それだけの実績がある工房の物です。」
「成程。輝きは鋼のそれですが、少々軽く感じるのは、そのあたりですか。」
「ええ。骨や爪をそのまま加工することもありますが、今お持ちしたのは、それらを砕き、混ぜた物になります。
ああ、それで脆くなったりと、そうするような工房の物はお持ちしていません。」
「成程。おや、こちらの物はバランスが良いですね。作りも丁寧ですし。」
「お分かりですか。今領都で最も優れたと、そう言われている工房の物です。」
「ありがとうございます。後は現地で改めてご案内いただきたく。
それと、運搬や私たちの同行で発生する費用に関してですが。」
「そうですね。こちらにお売り頂ける量は、どのくらいになりそうでしょう。」
ホセの言葉にフェルナンドが、二人が得た物を伝える。
それが終われば、オユキが補足として、武器としてどの程度を求めているのかを口にする。
「予備も含めて、三振り程、それぞれに拵えようかと。」
「成程、どの程度使うかは、今の段階では難しいですね。でしたら片道、一人当たり1万ペセといったところでしょうか。」
「では、往復七人分で、14万ですね。」
事前にミリアムから聞いた、相場通りの金額を、トモエが机に置く。
「かしこまりました。フェルナンド、隣で確認してきてくれ。
さて、それでは契約の前に、一番早い予定ですと、4日後となりますが。」
「では、それで。私たちのほうで、必要な用意はありますか。」
「そういった物、全て込みですよ。」
その後はそのまま契約書を作成して、商人ギルドを出る。
「なぁ、良かったのか、俺たちの分まで出してもらって。」
「構いませんよ、こちらから誘った事でもありますし。
正直、トロフィーの肉を売った際に得た物を、持て余していましたから。
持ち歩くのも問題がありますし、かといって宿に置きっぱなしというのも。」
「まぁ、あんたらがかなり稼げるのは、知ってるけどよ。」
「あなた方も、日々の糧以上の物は、今なら問題なく稼げると思いますよ。
正直、丸兎2匹狩れば、一日の宿代にはなるのですから。」
オユキがそう言えば、少年たちも互いに顔を見合わせて、ため息をつく。
「ほんと。私たちが小間使いやって、それだけ稼ごうと思えば、半日は目いっぱいこき使われるのに。」
「だなぁ、丸兎なら、それこそ見つければすぐだし。」
「はい、そこ。命がかかっている、それを忘れないようにしなさい。
さて、思いのほか早く終わりましたから、今日も、狩りにでて、それから訓練ですよ。」
「分かってるよ。にしても、新しい武器か。」
そういって、シグルドが自分の持つ武器を、鞘に入れたまま掲げて、じっくりと眺める。
「どう、でしょう。予備くらいは持っていたほうが良いとは思いますが、まだ新しいものは早いかと。」
「そうなのか。」
「はい。まだまだ訓練の途中ですから、今武器を変えると、大変ですよ。
そうですね、これを持ってみましょうか。」
そういって、トモエがかれこれ1週間は付き合っているサーベルを渡す。
それをシグルドが鞘に入れたまま振るが、彼が使っている物よりだいぶ軽いため、体が前に流れている。
「お。あれ。」
「軽い分、簡単に触れると、そう思ったのでしょう。」
「ああ。おかしいな。なんか、全然違う。」
「アナさん達も、試してみてください。」
そうして、少年たちの間で、サーベルが回され、それぞれ武器に振り回される。
「アナは、普段短剣だろ。重いから簡単じゃないのか。」
「なんか、こう、普段支える場所以外に、力がかかる感じがして。」
「やはり、剣は合わんな。」
「なんか、グレイブよりも、狙いを付けるのが難しいかも。」
「私は、普段から弓を使わないとこれだけど、なんか、おかしい気がする。」
そう思い思いに話す少年たちから、サーベルを受け取ると、トモエが話始める。
「同じ武器、というのは厳密にはありませんから。
どの子にも、癖があるんです。使い方によって、持ち手はすり減っていきますし、刃の痛み方も、使い方次第です。
もちろん、訓練していけば、馴染む時間を短縮できますが、今はそうではないですからね。
どうしても今の武器が使えない、そんな状態になるまでは、使ってあげるほうが良いですよ。」
そのトモエの言葉に、シグルドは再び、自分の剣を数度振ると、改めてそれをじっくりと見ている。
「そっか。これも使ってるうちに、自分の物になってくのか。」
「はい、武器とはそのような物です。
それでは、今日も一人五匹を目標に、丸兎を狩りましょうか。」
少年たちの元気な返事を聞きながら、7人連れ立て、歩き出す。
すっかり、この顔ぶれでの行動に馴染んできたけれど、恐らくオユキは引率されている側に見えるんだろうな、そんなことを考えながら、小走りで歩く。
「では、今日も怪我に気を付けて、行きましょうか。」
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