第21話 続く戦い
そういうと、トモエはまたも無造作に見える足取りで、数体が固まるように歩く魔物に向けて近づいていく。
その間も、魔物、歩きキノコは何をすることもなく、のろのろと、何処かに向けて歩いている。
それらに向けて、トモエは無造作に刀を突き込むが、丸兎の時とは違い、一度でその姿を失うことなく、まだそこにあった。
トモエはそれを確認すると、歩きキノコを蹴りつけ、その反動も併せてつき込んだ獲物を引き抜き、続いて、突きではなく、何度か切りつける。
片手で振られたにも関わらず、それは確かな鋭さで、魔物を切り裂いていく。
続けて四度ほど切りつけると、ようやく、魔物は形を失い、そこに何かを残す。
それを確認することもなく、トモエは残った2体も順に切りつけていく。
どうやら、突くよりも切るほうが効果があるようで、同じ回数、それぞれを切れば、残りも同じようにその場に何かを残して形を失っていく。
そして、その間に、一度たりとも歩きキノコがトモエに対し何かの攻撃行動を取ることはなかった。
転がった、キノコと、硬貨、魔石を拾い上げたトモエが、オユキとトラノスケが待つ場所まで戻ってくる。
「確かに、殺傷するのは難しくなさそうですが、手間はかかりますね。」
戻ってきたトモエが、開口一番そう告げる。
はたで見ていたオユキとしては、自分は苦戦しそうだ、そんな感想を得てしまう。
「特に危険な攻撃してこない代わりに、頑丈だからな。
なに、ちょうどいい腕試しにはなるだろ。」
「あまり無抵抗のものに、刃を振るうのは気が進みませんが。」
トモエの言葉に、オユキも考える。
確かに魔物というには、あまりに害がないように感じられる。
だが、少なくとも、ゲームの頃から魔物、そう呼ばれるものは人に限らず、自然にも牙をむく手合いであったはず。
オユキは記憶から何か、設定があったかと、思い起こそうとするが、トラノスケから早々に答えが出される。
「ああ。そいつらは森を腐らせるそうだ。
数が集まりだすと、その地一帯の養分を吸い尽くし、さらに周りの植物を、どんどんキノコで覆い、食らうらしい。」
「それは何とも。空恐ろしい生態ですね。」
「詳しく知りたければ、それこそ狩猟者ギルドで確認すれば、いろいろと教えてくれるだろう。」
「ありがとうございます。それにしても、キノコと生肉を同じ袋に、包みもなしに入れるのは、少し気が引けますね。」
「まぁ、そのあたりは、気にしても仕方がない。狩猟者ギルドの処理を信じて任せるしかない。
ただ、物によってはやはりつぶれ、価値を失うものもある。そういった物を運ぶために、木箱なんかを袋に入れておくのもいい。」
そうして話す二人の様子を見ながら、オユキはあたりを伺い、歩きキノコを探す。
そして、2体が連れ立って歩いているのを、ほど近い場所に見つける。
「それでは、私も相手をしてきますね。」
そういい置いて、オユキは歩きキノコへと向かう。
近づいてみれば、やはりそれは今のオユキとあまり変わらない大きさを持っている。
ナイフ一本で、どの程度までやれるのか。
そう考えながらも、オユキは歩きキノコに挑みかかる。
丸兎とは違い、こちらの動きに合わせて何かをするでもなく、ただのそのそと何処かへと歩こうとする、その獲物に、オユキは近づきざまにナイフを振るい、さらに返してはもう一度切りつける。
やはり刃が短いせいか、数度切りつけても、浅いところに傷をつけるにとどまっている。
オユキはそれに、やはり長物があるほうがいい、そんなことを考えながら、立ち位置を細かく変えながら、歩きキノコをナイフで刻む。
そして、十四回ほど、オユキが切りつけた後に、ようやくキノコはその姿を失い、いくつかの物品を落とし、その姿を消す。
オユキはそれを見て、大きく息をつく。
息が少し上がりはじめ、鼓動も高くなりだしている。
首筋には汗が滲み、張り付く髪がうっとうしさを感じさせる。
そうして少し気が逸れたからだろうか、踏み込む際に、自分の髪を踏みその場に転がる。
軽く動いていたため、それで首を痛めるほどではなかったが、やはり慣れないとこういうことになる、オユキはそれを痛感する。
突然こけた、はたからはそう見えたのだろう、それに慌ててトモエが動き出そうとして、足を縺れさせ転び、それを放っておいたトラノスケが駆け付け、一刀のもとに歩きキノコを切り捨てる。
その剣閃は、オユキの目から見ても、見事なものであった。
切られたキノコは、そのまま姿を煙のように消し、例によって何かをその場に残す。
「大丈夫か。」
「はい。やはりまだ体が馴染んでいないようです。」
未だに地面に倒れたままのオユキを、トラノスケが片手でつかんで持ち上げ、足から地面に下ろす。
「ありがとうございます。トモエさんは大丈夫でしょうか。」
「ああ、向こうもとっさに動こうとして転んでいたな。
まぁ、慣れるまではそんなものだろう。それこそとっさの動きに問題が出るうちは、このあたりで慣らすのが先だな。それもゲームと同じだ。」
「ええ、そうですね。それにしても、こうして土の上で転ぶなどいつ以来でしょう。」
オユキはそういって、なんだか可笑しくなってしまった。
ふんだ髪は、今更ながらに、これまで無造作に動き回っていたため、落ち葉や土がついている。
身だしなみには、社会人らしく気を付けてはいたが、今後はそれだけでは済まないのだろう。
そんなことを今更に思い知る。
「オユキさん、大丈夫でしたか。」
地面に転がっていたものを拾い、カバンに詰め終わったころに、トモエもオユキとトラノスケの側に来る。
「はい。髪を踏んでしまって。」
「ああ。そうですね、外に出るときは少し結い上げましょうか。」
「お願いします。生憎私は詳しくないので、お任せすることになりますが。」
「ええ、任せてください。」
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