第20話 森へキノコを狩りに

「狼の魔物は、出会えないときは出会えない。

 その特性は、普通の犬と変わらない、よく利く鼻、遠くの音を確実に拾う耳。早い足。

 襲ってくるときは、大抵少数の群れだな。それなりに危険な相手だ。

 だが、誰彼構わず襲うようなこともない。自分達より強い、そう踏めば逃げる、それくらいの知能もある。」


だから次は、歩きキノコを狙おう。

言われた言葉に、トモエとオユキは、武器をトラノスケから渡された布で拭きながら頷く。

オユキはあらかた、血をぬぐった後に、ナイフに歪みがないかを確かめるが、初めて振るった割に、刃に欠けもなければ、歪んでいることもない。

トモエを見れば、同じような状態らしく、軽く確認した後は、早々に鞘に納めている。


「こっちの獲物は、向こうに比べてかなり頑丈に作られてる。

 血や油で滑ることはあっても、刃がかけることも、曲がることもない。

 ただ、ある程度使いすぎると、突然折れる。」


そのあたりは、ゲームの名残なのだろう。詳しくはそれこそ鍛冶師にでも聞かなければわからないが、そうトラノスケは告げる。

ゲームを基にした世界、そういわれたように、そこにはやはり、何処かゲームらしさ、というものが残っているのだろう。

ゲームの時と違い、情報を数値としてみることまでは叶わないようではあるが。

最も、数値としてわかるのは、せいぜい自身の体力、マナ、武器の耐久度、程度のもので、それ以外の数値が目に見える形で表示されることはなかった。

それを、不便だ、らしくないというものいれば、これでよいと、第二の現実だから、体力などの表示でさえいらぬのだ、そう言い切る人間とで度々論争が起こっていたものだ。

最も開発者は、それ以上の情報を表示するつもりもなく、武器の耐久度の表示ですら、ゲーム的な都合、そもそも現実に存在しない金属であったり、現実で武器を取りまわす機会等、そう存在しない。それを踏まえてやむなく可視化した、そう言い切った。


「そのあたりは、変わりませんか。」

「ああ。変わらない。どうやら内部的にはレベルのようなものも、変わらず残っているようだがな。

 魔物を狩り続ければ、身体能力が上がる。これは訓練以上のもので、明らかにおかしな、前の世界ではありえないこともできるようになる。ゲームの時と同じようにな。」


森へと歩き出したトラノスケの後を、オユキとトモエがついていく。

その道すがら、トラノスケはそんなことを話す。


「それこそ、2m以上も飛び跳ねたり、車くらいの速度で走り回ったりとな。

 そのあたりは、まぁ、おいおい確かめていけばいい。」

「成程。確かに、明らかに体躯に比べて、動けますからね。」


オユキは自身の体躯なら、そろそろ疲れているはずだとは思うが、二人に追いつくために速足で移動を続けているわけでもあるし、まだまだ疲労を訴えることのない体を、改めて見下ろす。

トモエにしても、何かその言葉に実感はあるようで、数度手を握ったり開いたりしている。


「そうですね、あそこまで無造作に突きを放てば、本来であれば骨は抜けないはずですし、たとえできたとして、少しは手首に負荷もかかったでしょうから。」


トモエはそういって、何か納得したように数度頷く。


「そのあたりは、まぁ元の世界になかったマナなんかも関係はしているだろうがな。

 マナの扱いや、魔法については、それこそ教会か魔術師ギルドで聞くほうがいい。

 かなり感覚的な物らしく、それぞれに違うと聞いている。

 実際ゲームの時でも、使えない奴はとことん使えなかったしな。」

「そうですね。ずいぶんと賑やかな方々もいましたが、それでも使えなくとも、問題はありませんでしたし。

 それに、信仰で得られるものに、マナが使われているようでしたからね。」


そういうオユキもゲームの時分には、魔術と呼ばれるものが使えなかった一人でもある。

ただ、魔術が使えずとも口に出したように、信仰を捧げていた神からの加護は確かにあった。

加えて、それを基にして、マナを使い、通常ではありえないようなことも確かにできたのだ。


「そういうものなのですね。」


トモエは話を聞き、ただ相槌を打つ。

ゲームを遊んでいなかったトモエにすれば、二人の話は、ただ、そういうもの、そう聞くしかないのだから。


そうして、3人が変わらず話しながら歩みを勧めれば、すでに森からほど近い場所へと、移動が終わっていた。

道中、少し離れた場所には丸兎もいたが、それには目もくれずに歩いたため、早く着いたのだろう。

森の側では、少し前から、大きな、それこそ人の背丈にほど近い、オユキと同じ程度の大きさのキノコが数体、歩き回っていた。


「先ほどから見えていただろうが、アレが歩きキノコだ。」


トラノスケが示す先を、トモエが興味深そうに見ている。


「エリンギに、シイタケ、でしょうか。種類によって名称の違いは?」

「ないな。ただ、見た目に沿ったキノコをドロップはするが。」

「何というか、分類学を専門とされる方がいたら、抗議の声を上げそうなことですね。」

「魔物の分類は、あまり細かくないからな。ただ、ドロップ品のキノコはそれぞれ名前があるぞ。

 そのあたりは元の世界と変わらないが。」

「形態よりも、分布と生態、そういう事でしょうか。

 相対するに、気を付けることはありますか。」

「特にないな。丸兎よりも御しやすい。見ての通り鈍重で、攻撃方法も体当たりのみだ。

 森の奥に入れば、胞子を飛ばして、その胞子を吸い込めば、相応の被害を受ける物もいるが、それは歩きキノコではなく、ファンガスと呼ばれている。」


オユキはその言葉に、そういえばそのようなものもいたと、そう思いだす。

警戒なく胞子を吸い込めば、毒を持つ胞子による、身体のマヒ、吐き気、眩暈、幻覚等、様々な、それこそ毒キノコを食べたときに現れるとされる症状が、一通り出るような、そんな魔物もいたはずだ。


「それはまた、厄介そうですね。では、まずは私から。」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る