Ⅶ 破戒者への「審判」

Ⅶ 破戒者への「審判」(1)


 有荷の死を知り、久郎が学校を飛び出して行ったその日の夜のこと……。


 何も見えぬ漆黒の暗闇の中、そこだけ円形の照明に照らし出され、そのぼやけた光の縁をなぞるかのように同じく弧を描いてパイプ椅子が並べられている……そして、各々の椅子の上には黒いローブを身に纏い、眼深く被ったフードの下に白いヤマイヌの仮面を被った者達が13人、まるで人形であるかの如く身動ぎもせずに座っている。


「邪魔者のおかげで、この秘密集会を開くのもほんと久々ですね」


 その黒い人影の中、唯一、赤いローブを纏った者が、仮面の中からくぐもった少女の声を不意に発した。


 その声からしても、あの大噛神社に現れた、久郎達がいうところの〝赤ずきん〟であるに違いないが、仮面と全身を覆うローブにすべては包み隠され、口を開かなければその性別すらも判別のつかないところである。


「でも、今夜は例のクズどもの所を回って大忙しでしょうから、ここへ来る心配はありません。それに事件のおかげで部活動は本日すべて中止。教師達も職員室に籠って対策会議の真っ最中……こちらは安心してクラブ活動ができるというものです」


「それにしても厄介なことになったものだ。どうやら脅しも通じないようだし、ヤツの存在は完全に我らの活動に支障を与えている」


 赤ずきんの左どなりに座る、他の皆同様の黒いローブを纏ってはいるものの、一人だけ白ではなく黒いヤマイヌの仮面を被った者が彼女に続いて口を開く。今度は男の声だ。


「だよね。ほんと迷惑だよ。これじゃ、おちおち集会も開けないし」


「これ以上問題が大きくならない内に、チーフの魔術でなんとかした方がいいんじゃねえか?」


「けど、相手も凄腕の魔術師なんだろ? 下手に手出すとむしろ藪蛇じゃね?」


「いいえ、だからこそ、このまま放っておくのは危険ですわ」


 黒い仮面の男の言葉に、他のメンバー達も口ぐちに自分達を探る招かれざる転校生――久郎のことを迷惑そうに語り合う。


「大丈夫よ。今のところ切迫した問題じゃないわ。念のため、すでにかの者には〝見張り〟を付けてあるから。相手の動向は逐一入ってくるし、先手を打つのは簡単なことよ」


 俄かに騒がしくなった会議の場に、再び赤ずきんが発言して皆を落ち着かせようとする。


「それよりも、今取り上げるべき問題は、なぜ部外者であるかの者が我ら〝勝ち犬倶楽部〟のことをここまで知っていたのか? ……即ち、タブーを犯して外部に秘密を漏洩した者がいるということよ」


「そうだな……ともかくも、口外の禁を破り、こうした事態を招いた者には罰を与えねばならん……」


 続く赤ずきんの言葉を受け、となりの黒い仮面の男もまた自らの意見を淡々とした口調で述べる。


「そうだ! 裏切り者を許すな!」


「戒律を破った者には厳格なる処分ですわ!」


 それを聞き、他のメンバー達の間からも情報を漏した者に対しての厳罰を求める声が次々と上がる。


「………………」


 そんな中、外からは覗い知れぬヤマイヌの仮面の下で、恐怖に顔を強張らせる者が密かに一人だけいたことをここに付しておこう……。

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