呪い──③

   ◆



「何もいないね」

『本当、不気味なほど何もいないわね』



 あれから数時間、洞窟内を探索するも特に何も見つからず。

 結局何もせず、洞窟の入口に戻って来た。


 この数時間で、不気味な気配の残滓もだいぶ薄れてしまった。

 もうほとんど気配を感じない。


 絶対何かしらあると思ったんだけどなぁ。



『──むむ? すんすん、くんくん』

「フェン? どうしたの?」

『くさい! くさくさの匂い、アレクスからする!』



 な、なんだって……!?

 まさか、入れ違いになってただなんて……!



「みんな、直ぐに戻ろう!」



 フェンリルに跨り、急いでアレクスの街へ向かう。

 風を切り、宙を駆け、来る時の数倍の速さで飛び。直ぐにアレクスの街が見えてきた。



「フェン、どこ?」

『こっち!』



 フェンリルが裏路地に降り立つ。

 けど、ここにも誰もいない。暗闇と裏路地独特の臭いだけだ。



『む? これは……』

「ライガ、どうしたの?」



 ライガがしゃがむと、何かをなぞるように石畳に触れる。

 なんだろう。俺には見えない何かがみえ?のかな?



『ふむ……呪い以外のもう1つの気配を感じます』

「もう1つの気配?」

『はい。かなり薄いですが……この気配は、サーシャ殿ですな』

「なんだって!?」



 ここにサーシャさんが……!? しかも、呪いの気配と一緒ってどういうこと!?



「あの呪い、サーシャさんが関係してるってことかな?」

『それはないと思うわよ。サーシャも、あの人形に呪いがついてて驚いてたじゃない』



 うーん……? じゃあなんでここに……?

 首を傾げると、スフィアが『恐らくですが』と口を開いた。



『サーシャ様がいた場所に、正体不明の何者かが接近した可能性があります。理由はわかりませんが……』

「でもサーシャさんなら、呪いが相手でもなんとかしそうな気もするけど」



 呪われた人形を見つけた時も、オモチャって言ってたし。

 呪いじゃなく、呪いを消した何者かが相手だったとしても、サーシャさんがやられるとは考えられない。


 それに見たところ血の痕跡もないし、争った形跡もない。

 もしかしたら、サーシャさんは何者かと鉢合わせしたけど、何も無く終わったのかもしれないね。



「うーん……一度サーシャのところに行って、何かあったか聞くのも──」






「こんばんは☆」






「……え?」



 聞きなれたような、初めて聞くような。

 変なイントネーションの挨拶に、つい振り返ってしまった。



「……サーシャさん?」



 なんでここに……? それに、なんか雰囲気がさっきと違うような。



『ご主人様、お下がりください』

『くさっ、くさっ!』

『あの呪いと同じ気配よ』

『然り。ご用心を』



 サーシャさんから呪いと同じ気配が……?

 つまり、サーシャさんが呪いに取り憑かれてるってこと……?


 満面の笑みで俺を見てくるサーシャさん(仮)。

 まさか、サーシャさんに限ってそんなこと……。



「こんばんは☆」

「……サーシャさんを解放しろ」

「こんばんは☆」

「……聞いてるのか?」

「こんばんは☆」

「…………」

「こんばんは☆」



 イラッ☆


 おっと、ついイラッとしてしまった。

 でもわかってほしい、俺の気持ち。


 にしても、サーシャさんの可愛らしい顔でこんな満面の笑みを見せられると、ちょっとドキドキする。



『コハク、アンタ変なこと考えてるんじゃないわよね』

「キノセイデス」



 クレア、鋭いな。


 だけどどうしよう。サーシャさんもおかしくなってるし、このまま無視して行くのも気が引ける。

 というか、呪いに掛かってたらどうにかして元に戻さないと。



「こんばんは☆」



 さっきから壊れたオモチャみたいに、こんばんはしか言わないし……よし。



「スフィア、確保」

『かしこまりました』



 一瞬でスフィアがサーシャさん(仮)の背後を取ると、羽交い締めして完全に固定した。



「え」

「さてと、色々と聞かせてもらおうかな。……とりあえずサーシャさんの体から出て行ってもらおうか。やり方はみんなに任せるよ」



 クレア、ライガ、フェンリルが悪どい笑みを浮かべ、サーシャさん(仮)の前に立つ。



『まあ、主の命令なら仕方ないわよねぇ』

『食べていいの? 食べていいの?』

『まあ待てフェンリル。まずは適度な拷問だ』



 おー、みんなやる気満々。



「こ、こんばんは☆ ……こんばんは……こ、ご、ごめんなさいっ、ごめんなさいごめんなさいごめんなさいーーーーーー!!」

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