アシュアVS偽アシュア

   ◆アシュアVS偽アシュア◆



「フッ──」

『────』



 アシュアが一息で7つの剣撃を放てば。

 偽アシュアも7つの剣撃で迎え撃つ。


 すでに5分間、息付く暇もなく互いの攻撃は続いていた。



(ふぅん……へぇ、なるほどね……)



 スピード、パワー、俊敏さ。

 どれもアシュアと遜色ない……いや、同等の力を持っている。



「これが疑似生命創造魔法……コルの言う通り、とんでもない魔法だ」



 今はこれが1体だから問題ない。

 しかし2体、3体と増えればとんでもないことになる。


 事実、創造のグラドは同じ個体を複数体創ることができる。

 しかしそれをしないのは、単に魔力消費量が馬鹿にならないからだ。


 グラドは本来、自分自身は隠れて疑似生命体を創り続けることを得意としている。


 無限に湧き出る最強の軍団を、魔力が回復しては創り続ける。

 それが、グラドが七魔極に選ばれている理由である。



『────』



 偽アシュアから七色のオーラが噴き出し、エッケザックスがそれを纏う。

 アシュアの使う《剣聖の加護》まで完全に模倣しているみたいだ。


 七色に光る2人のアシュアが、超高速で肉薄する。


 もはや視認できないほどの剣撃を放つ2人。

 一振りで8つの斬撃が激突し、暴風が吹き荒れた。



「ハッ!!」

『────』



 しかし2人の撃ち合いは終わらない。止まらない。

 アシュアにとってこれほどまでに全力を出せ、これほどまでに拮抗した戦いは久しぶりだった。


 ──それが、アシュアの内に眠る獣を呼び覚ました。


 昔から、強者と戦う時にのみ現れる“ナニカ”。

 自身の力をコントロールできず、才能に振り回されていた若い頃と同じ。


 その懐かしいような、生と死のギリギリを綱渡りで歩くような感覚に、アシュアは歯を剥いて笑う。



「あぁ、これだ。この感覚──いい!」

『────』



 直後、アシュアの剣撃が偽アシュアを押し返した。

 バランスを崩す偽アシュア。

 アシュアの動きは、今までのように型にハマった動きではない。


 もっと自由で。

 もっと獰猛で。

 もっと歪で。

 もっと荒々しい。


 普段のアシュアを完全コピーした偽アシュアでは到底真似できない、異様な戦い方で偽アシュアを追い詰める。



『────』

「あはっ!」



 偽アシュアの武技を縫うように避け、みぞおちへ蹴りを入れる。

《剣聖の加護》で強化した蹴りは、簡単に偽アシュアを吹き飛ばした。


 吹き飛ばした偽アシュアを追い、飛翔する。

 が、偽アシュアは宙で一回転することで勢いを殺し、アシュアを迎え撃つためにエッケザックスを振り上げた。


 2本のエッケザックスが激突。

 エッケザックスの能力は【防御貫通】。

 2つの【防御貫通】がぶつかった結果、七色の衝撃波が円形状に広がり、周囲の雲を消し飛ばす。


 が、しかし──。



「よっ」

『────』



 突如力を抜いたアシュア。

 そのせいで偽アシュアのたいは崩れ、つんのめった。



「クロイツ流剣術──激刃げきじん流し」



 バランスを崩した偽アシュアは、攻撃に移ることも防御することもできない。



「じゃあね。楽しかったよ」



 アシュアは流れるようにエッケザックスを振るい、偽アシュアの首をはね飛ばした。



「……ふぅ。やれやれ、久々に悪い癖が出ちゃったな」



 エッケザックスを鞘に収め、力を抜く。

 アシュアは昔から、強敵と戦う時に戦闘を楽しむ節があった。

 力をつけ、ミスリルプレートになってからはなりを潜めていたが……。



「俺もまだまだってことか」



 宙に霧散した偽アシュアを一瞥し、アシュアはグラドへ向かって飛んで行った。

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