プラチナプレート──①

 責任の重さに緊張感を持っていると、レオンさんが俺の背中を軽く叩いた。



「それじゃあ、早速だけど依頼をしてもらおうかな。バトルギルドのプラチナプラチナプレートの依頼は、他のギルドよりも厳しい内容ばかりだ。早くやって、早く慣れた方がいいだろう」

「あ、わかり──」

「ちょっと待ちなさ~い」



 と、今度はトワさんが俺の腕を掴んで止めた。



「こちらのプラチナプレートの依頼も~、難しいものばかりなんですよ~。それにコハクさんはテイマーギルドを拠点としています~。まずはこちらから慣れていく必要がありますので、おチビちゃんは引っ込んでいてくださ~い」

「いやいや、何を言っているのかな? バトルギルドで戦闘に慣れれば、他のプラチナプレートの依頼も簡単にこなせることができる。まずはバトルギルドに任せて、君はデカすぎる胸で凝っている肩を労わってあげた方がいいんじゃないかい?」



 バチバチッ、バチバチバチッ。

 相変わらず仲が悪いなぁ。いや、ここまでくると、逆に仲がいいんじゃないかとさえ思えてくる。



「まあまあ、マスター。落ち着いてください」

「アシュア。お前はどっちの味方だ」

「強いて言うなら、コハクくんのファンですね。どちらが先かは、コハクくんに決めてもらえばいいじゃないですか」



 げっ。ここで俺に丸投げします?

 トワさんとレオンさんが、目の輝きを変えて無言で俺を見てきた。


 ぐ、ぐぅ……! お、俺は……俺は……!



   ◆



「むふーっ。コハクさん、こちらを選んでくれると信じていましたよ~」

「は、ははは……」



 部屋に残ったのは俺とトワさんのみ。

 俺はまず、テイマーギルドのプラチナプレートの依頼を受けることにした。

 レオンさんにはむすーっとした顔をされたが、テイマーギルドとバトルギルドの依頼を交互に受けると約束し、今日の所は引いてもらった。


 二体の猛獣に睨まれてるようで、落ち着かなかったよ。



「それではコハクさ~ん。最初の依頼をお願いしますね~」

「あ、はい」



 トワさんは机の引き出しから、一枚の依頼書を取り出した。

 そこに書いてあるのは——。



「マグマ草の採取、ですか?」

「はい~。マグマ草とは、マグマの中でしか自生しない植物でして~。更にマグマの中を遊泳するマグマシャークという魔物もいるのです~。プラチナプレートとしての最初に依頼にピッタリかと思いまして~」



 なるほど。確かにこれは難しい依頼だ。普通のハンターじゃ、難しいだろうな。



『マグマ! 超高熱なら私の出番ね! 任せなさい!』

『ご主人様、私の防御シールドと耐熱シールドがあれば問題ありません』

『コハク様。溶岩の中の魔物など、我が一刀のもとに切り伏せてごらんにいれます』

『マグマ飲み干した方が早いよ! 僕に任せて!』



 みんなもやる気十分みたいだ。

 あとフェンリル。マグマ飲むのは胃に悪いから、やめなさい。



「わかりました。この依頼受けます」

「ありがとうございます~。マグマ草は耐熱性を持っていて、装備の素材としても使えるんですが、数が少なかったので~」



 まあ、マグマの中からそんなものを取れるハンターも限られてるだろうからね。


 俺はトワさんに挨拶をすると、テイマーギルドから外に出た。



『コハク、場所はどこなの?』

「えっと……ここから南に行ったところにある、グレゴン火山だって。そこの火口にマグマ溜まりがあるらしい。フェン、今日もお願いね」

『がんばる! がんばる!!』



 フェンリルの背中に俺とスフィアが乗り、クレアはいつも通り肩に乗った。ライガは宙に浮かぶ大剣の刀身に乗り、スタンバイしている。



「じゃあフェン、よろしく」

『ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッッッ!!!!』



 咆哮を上げ、宙に駆けだすフェンリル。

 ライガもその直ぐ後ろをついて来た。



「スフィア、グレゴン火山って、アレクスの街から遠いのかな?」

『馬車を使えば1週間はかかる距離ですね。フェンリルの脚なら、1日で着くでしょう』

「結構距離があるんだ……フェン、あんまり無理しなくていいからね。急ぎでもないし、ゆっくり行こう」

『わかった! 僕、がんばるね!』

「わっ……!」



 一気にスピードが上がった。

 それに合わせ、ライガのスピードも上がる。

 こ、こんなに頑張らなくていいのに……! こ、これっ、下手したら飛ばされちゃうよ……!



『ご主人様、ご安心を。飛ばされないよう、私がしっかり離しませんので』

「す、スフィア、ありがとう……!」



 スフィアの腕が優しく俺の体に回される。

 その拍子に、スフィアの柔らかさと温かさが、俺を包み込んだ。


 スフィアは幻獣種ファンタズマ。しかもゴーレムと同種の機械人形マシンドールだってわかってる。

 でも、この柔らかさと温かさ……まるで本物の人間の女の子みたいで、緊張するっ。



『ちょっと! アンタ、コハクに抱き着きすぎよ!』

『ふふ。嫉妬は見苦しいですよ。恨むなら小さいその体を恨みなさい』

『ぬあんですってぇーーーー!?』



 喧嘩するほど仲がいいとは言うけど、耳元で喧嘩しないでほしい。切実に。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る