兼任──①

   ◆



 ブルムンド王国とターコライズ王国が友好国となり、はや1ヶ月。

 その間に様々なことが決められ、捕虜として捕らえられていた235人の刺客たちは解放された。


 俺としては、サノアくらいはずっと拘束して欲しかったんだけど、そうもいかないみたいだ。大人の事情ってやつだね。


 俺もその間、絶海の孤島大陸には戻らずブルムンド王国に滞在していた。

 この数ヶ月、好きに特訓をさせてもらってたけど、俺もテイマーギルドの一員だ。やっぱりハンターとして仕事はしないと。


 と、今日も今日とて一日に採取依頼と討伐依頼を3つずつ受けていた、ある日のこと。

 受付嬢のサリアさんに採取依頼で集めた上質な鉄鉱石と、ついで見つけた高級魔水晶を納品していると、声を掛けられた。



「ああ、そうだ。コハクさん、マスターが執務室に来るよう言っていましたよ。何やら大事な話があるとかで」

「トワさんが?」



 うーん、大事な話ってなんだろう。この1ヶ月、かなり真面目に働いているつもりだったんだけど……何かしちゃったかな?



「わかりました、ありがとうございます」



 サリアさんにお礼を言い、受付横の扉から執務室へ続く廊下を歩く。



『どうしたのかしら?』

『これまでのご主人様の活躍を考えて、何かくれるのかもしれませんね』

『然り。武功を成した者に褒美を取らせるのは、当然のこと』

『おかし!? おかしくれるのかな!?』



 この1ヶ月、ハンターとして頑張って来たご褒美がお菓子だけだったら、さすがの俺でも苦笑いだよ。

 ……え、違うよね? もっと別のものだよね?


 と、廊下の一番奥にある執務室に到着。

 ノックをすると、中から「どうぞ~」というトワさんの声が聞こえてきた。



「失礼します」

「コハクさん、お待ちしていました~」



 中にいたトワさんが、朗らかに出迎えてくれた。

 特に変なところはない。いつも通りのトワさんだ。



「あの、どうかしたんですか?」

「ふふふ~。まあまあ、まずは席についてくださいな~。あ、お菓子食べます~?」

『『お菓子!!』』



 お菓子という言葉に、クレアとフェンリルが興奮気味に反応した。

 まあ、トワさんのお菓子はお店顔負けで美味しいからね。気持ちはわかる。


 ソファーに座り、紅茶と一緒にチョコチップクッキーと紅茶クッキーが出された。

 なんだか、最初にブロンズプレートを貰った時のことを思い出すな……あの時と同じ構図だ。



「本日は幻獣種ファンタズマの皆さん1人ずつにもお皿があるので~、沢山食べても問題ありませんよ~」

『トワ、大好きぃ!』

『おかしたべほーだい!』

『こら2人とも。お行儀が悪いですよ』

『申し訳ない、トワ殿』



 とか言いつつ、スフィアもライガも嬉しそうだ。



「みんな喜んでいます。お気遣いありがとうございます、トワさん」

「いえいえ~、やはりお菓子は皆さんで食べるのが一番ですからね~」



 それなら、遠慮なく。

 ぱく、もぐもぐ。



「~~~~っ! うっま~……!」

『相変わらずトワのクッキーは最高ね!』

『まぐまぐ、まぐまぐ!』

『むむむ。これは美味しい……成分分析と調理工程再現で、いつでもご主人様にお出しできるようにしなければ』

『ふむ、美味である。皆が喜ぶ気持ちもわかるな』



 紅茶との相性も抜群だし、疲れた体に染みわたる。

 トワさん、お菓子屋さんをやっても繁盛しそう。美人女店主の手作りクッキーとか銘打って。


 お菓子と紅茶で心と体を満たしていると、不意にトワさんがポケットからあるものを取り出した。

 布に包まれた手の平サイズの何かだ。



「……これは?」

「今回、コハクさんをここにお呼びした本題です~」



 本題?

 トワさんがゆっくり包みを開く。

 そこに現れたのは——白金に輝く、テイマーギルドのプレートだった。



「コハクさん、おめでとうございます~。コハクさんは本日より、プラチナプレートのハンターですよ~」

「ぇ……ぷ、プラチナプレート!?」



 今の俺のランクはシルバーだ。本当ならゴールド、プラチナと上がっていくはず。

 それなのに、ゴールドを飛び越して一気にプラチナプレートって……!?



「コハクさんがテイマーギルドに来て数ヶ月。異例の速さでの昇格ですよ~」

「い、いやいやっ。俺、そんなに大したことしてませんよ、本当に……!」

「謙遜も過ぎると嫌味になるので気を付けた方がいいですね~。思い返してみてください。魔水晶の定期納品や、世界一の鍛冶屋であるザッカス氏の現役復活の援助。【紅蓮会】壊滅の要に、魔族の撃破。他にも様々な功績が積み重なり、魔人化まで体得しているのです~。誰がなんと言おうと、今のコハクさんはプラチナプレート並みの実力を持っていますよ~」



 う……そ、そんなに褒められると、恥ずかしいんだけど……。



『むっ。プラチナプレート並みですって? 失礼ね、ミスリルプレートでもやっていけるわよ!』

『然り。コハク様の力は世界最強レベルである』

『訂正を要求します』

『コゥつよい! コゥつよい!』



 みんなはプラチナプレートじゃ納得いってないみたい。

 俺なんてプラチナプレートでも恐れ多いというか、萎縮しちゃうんだけど……。



「本当なら、もっと早くに昇級しようと思っていたのですが~……コハクさんの功績の積み重ねが余りに早すぎて、時間が掛かってしまいまして~」



 みんなのことが見えないトワさんは、何もないように話を進める。

 こ、これは、俺がさっさと受け取らないと、みんながずっとギャーギャー言いそうだ。



「トワさん、ありがとうございます。謹んでお受けします」

「ふふ。はい、これからも期待していますよ~」



 トワさんが立ち上がり、俺の右胸に付いているシルバープレートを外し、プラチナプレートを付けた。

 俺の胸に輝く、白金の輝き。


 こうして俺は、プラチナプレートにランクアップしたのだった。

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