終戦──⑤

「──俺がいる場所への特別扱いをやめてほしい」

「「「────ッ!?」」」



 俺の言葉に、この場にいる全員が息を飲んだのがわかった。

 それもそうだ。俺がこんなことを言うなんて、誰も思わなかっただろうからね。



「こ、コハクさん……!」

『黙りなさい、カエデ。まだコハク様がお話しなさっています。その言葉を遮るのは、不敬ですよ』

「…………っ」



 ガイアの言葉に、女王陛下は口をつぐんだ。

 それを見て、俺は話を続ける。



「俺は、俺の力を自覚しているつもりだよ。幻獣種ファンタズマは、一体いれば都市を……文明を滅ぼすことができるもの。それを複数体テイムしてるんだから」



 俺が気に入らないという理由でゴーを出したら、恐らくこの世に敵はいないだろう。

 そんなことはしないと断言できるけど、俺はそれ程の力を有している。



「それなのに俺が住む場所の国力まで上がったら、そんなのフェアじゃない。他国が衰退し、俺がいる場所が発展する。そんなことを知ったら、俺は人のいる土地で住めなくなっちゃうよ」



 俺の言葉を黙って聞くガイア。否定はしないみたいだ。


 この世界は広い。いつか、ブルムンド王国以外にも行くことがあるかもしれない。

 でもこれじゃあ、ブルムンド王国から出ることもできないし、出ようとしても女王陛下が許さないだろう。


 他人に縛られる人生なんて、ごめんだ。



「ガイア、今ブルムンド王国の土壌は、平常の4倍豊かになってるの?」

『はい。ターコライズ王国にいた頃と同じです』

「わかった」



 それから俺は女王陛下に向き直った。



「女王陛下、提案があります。この国の国力は平常の1・5倍に下げます。その代わり、俺の力はブルムンド王国のために使いましょう。他国との戦争も協力しますし、抑止力に使ってもいい。もしこの案が飲めないのであれば……」



 そこで言葉を切った。

 まだ移住してきて数ヶ月しか経ってないけど、俺はこの国が好きだ。

 俺の力を認めてくれて、親切にしてくれた国だから、裏切るような真似はしたくない。


 女王陛下は目を閉じて思案し、ゆっくりと口を開いた。



「確かに……コハクさんの力がありながら、更に自国の国力を上げて他国を衰退させるのは、意味がありません、か……わかりました。その提案を飲みましょう」

「ありがとうございます」



 そしてもう1つ。



「ターコライズ王国、国王陛下。そちらにも提案があります」

「な……なんでしょう……?」



 俺の言葉に怯える国王陛下。別に悪いようにはしないのに。



「ターコライズ王国の土壌も、今の1・5倍にします。これからブルムンド王国の友好国となるのですから。その代わり、今後二度と同じようなことをすれば……」



 そこでまた言葉を切った。

 別に、生まれ育った国だからといって優遇するつもりはない。

 俺の生活を脅かすことがあれば、手を下すことも辞さないだろう。


 俺の言葉の真意を受け取ったのか、ターコライズ王国国王とギルドマスター達が、一斉に頭を下げた。



「ははぁ! 我ら、二度とコハク様の生活に干渉しないことを誓います……!」

「……うん、ありがとうございます」



 よかった。これでターコライズ王国側がごねたら、それはそれで面倒なことになりかねなかったし。

 俺も力を誇示したい訳じゃない。できることなら、何事もなく平和に暮らしたいんだ。



『かしこまりました、コハク様。全てはコハク様のご意思の通りに』

「頼んだよ、ガイア。頼りにしてるから」

『! は、はいっ。不肖ガイア、コハク様のご期待に添えられるよう、尽力致します……!』



 ガイアは鼻息荒くペコペコと頭を下げる。

 すると、ガイアの体が淡く光り。

 泡のように弾けたと共に、空気に溶け込むようにして消えていった。


 幻獣種ファンタズマの圧が消え、この場にいる全員が深々と息を吐いて立ち上がった。



「これで、今回の話し合いは全て終了ということで大丈夫ですか?」

「はい。ありがとうございます、コハクさん」



 女王陛下も、なんだか憑き物が落ちたような清々しい顔をしていた。


 ……まさかこの人、このことを狙ってわざとあんな無茶な提案をしてきたんじゃ?

 もしそうだとしたら……本当、食えない人だ。


 じとっとした目で女王陛下を見ると、「てへ」と舌を出して微笑んだ。確信犯か、この人は。



「でもコハクさん。これで平和に暮らせますよ。まあ、コハクさんが自ら提示してくれたように、戦争が起こったらもしかしたらご助力いただくかもしれませんが」

「……俺があそこであんな提案しなければ、その必要もなかった、と?」

「ふふふ」



 笑って誤魔化すんじゃないよ。

 全く……想像以上に強かな人だな、女王陛下。

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