行動開始──③

   ◆



「馬鹿か? お前はやっぱり馬鹿なのか?」

「痛いです。離してくださいドアラさん」



 バトルギルドから3つほど離れた位置にある宿屋にて。

 ドアラはサノアにアイアンクローを食らわせていた。


 それでもサノアは無表情のまま、アイアンクローを受けている。



「これは仕方ないことなのです。私の言い訳を聞いてください」

「おん? バトルギルドのトイレに爆発物を仕掛けた理由なんてあるなら言って見ろや。言い訳って言ってる時点で期待はしないがな」



 ドアラの冷たい視線に……サノアはそっと目を逸らした。



「目ェ逸らしてんじゃねェか!」

「そんな怖い顔をするからです。だからちゃんとした理由があるんですって」

「じゃあ言ってみやがれ!」






「ああすれば、ロウン氏もぶちギレて本気を出すかなぁと」

「ダウトだこのクソあまァ!!!!」






 ろくでもない理由過ぎて、ドアラはめまいを覚えた。


 ロウンはバトルギルドのミスリルプレートだ。

 そいつを怒らせるだけでも命知らずなのに、あんなやり方はバトルギルド全員に喧嘩を売ってるのと同じだ。


 それだけじゃない。下手をすれば、他のミスリルプレートやギルドマスターまで出てくる可能性すらある。


 そんなの自殺行為と同じだ。



「俺らの目的は男1人をひっ捕らえることだろうが! 何考えてんだテメェ!」

「忘れてないですよ。それに、すでにこの街にコハ……青年がいないことは確認済みです」



 ぴた。

 サノアの言葉に、ドアラの動きは止まった。

 この街に青年はいない。

 確かにそう言った。しかも、確信を持って。



「おま……いつ調べた? この街だって、狭くはないだろ……?」

「簡単です。この街の住人でお金に困っている方々へ、お金をばらまいたんですよ。依頼で貯めていたお金も特に使い道がなかったので」



 つまりこの街の住人を金で買収し、青年コハクに関する情報を集めさせたということだ。


 確かに探し物をするのに、人海戦術は初歩中の初歩だ。

 それはドアラもわかっている。

 事実ドアラも、アレクスの街にいる女を金で買ったついでに、コハクに関しての情報は僅かに集めていた。


 しかしこんな短期間に情報を集められるほど金をばらまき、人を動かしたという事実にドアラは戦慄した。


 だが。



「お前、それ知ったのはいつだ?」

「3日ほど前でしょうか。青年は今、絶海の孤島にいるらしいです」

「それを俺に言えや!!!!」



 ドアラの心の叫びはもっともである。

 と、そこに。


 ミシッ──外から、複数人の人間の気配を感じた。



「「ッ……!」」



 反射的に窓ガラスを破って外に飛び出る。

 直後、扉が轟音と共に破壊され、数人の輩が飛び込んできた。



「逃げたぞォ!」

「追え、追えーー!」



 胸に光るバトルギルドのプレート。

 全員、バトルギルドに所属するハンターのようだ。



「チッ! なんでばれた……!?」

「あなたが大声を出したからでは?」

「出させた張本人が何しれっとした顔で言ってやがる!?」

「とにかく逃げますよ」

「テメェが言うな!」



 サノアとドアラは互いに罵り合いながら、屋根の上を超高速で駆けていく。

 しかし、2人にべっとりと張り付くような視線は、振り払えなかった。



   ◆



「ようやく見つかりましたかー。随分と時間が掛かりましたねー」

「実力はプラチナ以上。隠密も一級品、か。さすがターコライズ王国の刺客なだけあるな」

「コハクさんに感謝ですー」



 場所は変わり、テイマーギルドのギルドマスター室。


 そこにいるのは、テイマーギルドのギルドマスター、トワ・エイリヒム。

 そして、バトルギルドのギルドマスター、レオン・レベラードだ。


 2人は机を挟んでソファーに座り、机の上には見慣れない地図が広がっている。

 コハクの使役している機械人形マシンドールスフィアの異能、ホログラムマップだ。


 ホログラムマップに浮かび上がる赤い2つの点が、高速で移動している。



「この動いている点が、コハクさんが見つけたサノアとドアラですかー」

「精度も完璧だ。今うちのハンターが追いかけているが、連絡のある場所と一致している」



 動いている赤い点もそうだが、他にも街中に赤い点が数多く浮かび上がっていた。

 スフィアが探した、ターコライズ王国から入って来たハンターの数、総勢235人分の点だ。



「コハク1人を連れ戻すために、大層な人数だな」

「仕方ありませんよー。コハクさんの力は、知れば知るほど喉から手が出るくらい欲しいものですからー」

「その気持ちはわかるけどな」



 幻獣種ファンタズマが一体いれば戦況をひっくり返せる。

 そんな幻獣種ファンタズマを唯一扱えるコハクが味方に付けば、この世界の覇権を取ることも可能だろう。


 それに加え、国力も盛んになる。

 この人数が刺客として送り込まれてきたのも、必然だった。



「あの2人はロウン達に任せて、他の奴らは任せるぞ、トワ」

「任せてくださーい」



 トワはにこりと笑うと、コハクに用意してもらった通信用水晶を手に取った。



「全員、配置に付きましたねー? ……行動開始」

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