捜索──②

   ◆



『そうですか。ターコライズ王国からコハクさんを連れ帰るための刺客が……』

「はい。恐らく、向こうのハンターかと」



 説明を終えると、トワさんは目を閉じ、口に指を当て思案した。

 いくら衰退してるとは言え、ターコライズ王国のハンターの力は俺がよくわかっている。


 幻獣種ファンタズマがいなくても、恐らくハンター自身の強さは変わらないだろう。

 ライガのように、加護を与えた人間なんて極小数のはずだ。


 そんな所から2人……下手をすると、それ以上の人数が押し寄せてくる可能性がある。


 トワさんもそれを考えたのだろう。

 直ぐに目を開け、真剣な眼差しで俺を見てきた。



『コハクさん。このことは女王陛下に報告します。いいですか?』

「はい、構いません」

『ありがとうございます。その上で、あなたにはしばらくブルムンド王国へ戻らず、そこにいてほしいのです』



 あ……そうか。俺が戻ったら、余計話がややこしくなるんだ。

 むしろ俺は引きこもってて、トワさん達に任せた方が賢明か。



「わかりました。すみません、こんなこと任せてしまって……」

『……ふふふ〜、何をおっしゃいますやら〜。コハクさんはもうブルムンド王国に無くてはならない存在。そして、仲間で〜す。仲間のために動くのは当然じゃないですか〜』



 穏やかな顔で、映像越しに撫でようとしてくるトワさん。

 あ、やば。泣きそう。

 こんなに大事にしてくれる人がいるって、幸せなことなんだな……。



『そ、の、か、わ、りぃ〜。しっかりと強くなるんですよぉ〜。トワ・エイリヒムはコハクさんに期待しているのですから〜』

「……ありがとうございます。俺、頑張りますっ」

『その意気です〜。それでは、3日ごとに連絡を取り合いましょ〜』

「わかりました」

『ではでは〜』



 映像が消え、辺りが静かになる。

 何となく寂しいような気持ちに陥った。


 思えば、人間と話したのって何ヶ月ぶりだ?

 でもおかげで、下火になっていたやる気も盛り返してきた。

 トワさんたちに俺の事情を押し付けてしまったんだ。俺がぐーたらしていいわけがない。



『ぐぬぬ……何だかトワに負けた気分だわ……!』

『ステイ、ステイ。焦ってはいけません。一緒にいる時間は圧倒的にこちらが長いのです。時間はたっぷりあります』

『ボクはコゥと一緒ならなんでもいーや』

女子おなごの考えはよくわからぬな』



 なんかみんなが内緒話してる。なんだろう、気になる。


 まあ、多分刺客について話してるんだろうね。

 だってあんなに真剣に話し合ってるんだもん。やっぱり、みんなは優しいなぁ。


 そんな優しいみんなの期待に応えるよう、俺も頑張らないと!



「みんな、早速だけど修行を再開しようか」



 とにかく、今はトワさんたちに任せて、俺もやれることはやろう。



   ◆



「全く、ターコライズ王国には困ったものですねぇ〜」



 コハクとの通信が終わり、トワはそっとため息をついた。

 コハクと久しぶりに顔を合わせられ、話をできたのは嬉しい。


 が、内容が内容だ。


 まさかコハクを連れ戻すために、ターコライズ王国からハンターが来るとは思いもよらなかった。


 トワは紅茶をすすり、ソファーに座る男を見る。


 少年のような体躯に、黒い髪、赤い瞳。

 傍にはクリスタルで作られた槍が立てかけてある。


 バトルギルド、ギルドマスター。

 レオン・レベラードだ。


 丁度、テイマーギルドのミスリルプレートと、バトルギルドのミスリルプレートを主軸とした合同訓練の打ち合わせをしていた所だった。



「聞いての通りで〜す。勿論、手伝ってくれますよねぇ〜?」

「ああ、勿論だ。他でもないコハクのピンチ。手伝わない道理はない」

「おや。やけに素直ですねぇ」

「俺はコハクに惚れているからな。君を殺してでも奪っていいなら、今すぐにでもそうするところさ」

「おほほほほ。できもしないことを大きく言うと、弱く見えますよ〜」

「あはははは。龍種ドラゴンの串刺しの方がお好みだったか?」



 相変わらずの一触即発の雰囲気。

 それを傍で見ていたアシュアは、小さくため息をついた。



「ほらほら、お2人とも。コハク君の危機にいがみ合ってる場合じゃないでしょう」

「俺のせいじゃない。この年増が突っかかってきたのが悪い」

「私のせいじゃないです〜。このおチビさんが子供なのがいけないんです〜」

「お? やんのかコラ」

「あ? 表出ろやチビ」

「ストップ!」



 2人の圧でテーブルにヒビが入ったところで、アシュアが本格的に止めた。



「マスター、トワさん。ともかく今は、コハク君の身の安全が最優先。このまま刺客を見つけられないと、いつまで経ってもコハク君は安心して戻って来れませんよ」

「そ、それは困ります……!」

「……確かに、今は仲間割れしている時ではないか」



 2人は圧を引っ込め、席に座った。


 こうして、テイマーギルドとバトルギルドは、ターコライズ王国からの刺客を探すべく共同戦線を張ったのだった。

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