真髄──④

「……■■■■」



 くっ……相変わらず気色悪い声だ。


 理性を失ったような虚ろな目で俺を見る魔族。

 こいつが、この渓谷の生態系を僅か数ヶ月で壊滅させた魔族、か。


 巨大な爪を動かし、鋭い牙を剥き出しにすると。



「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!!!!!」



 い、いきなり咆哮!?

 俺の体を叩きつける衝撃波。そいつが円形状に広がり、空気中の毒ガスや毒霧を吹き飛ばす。


 相変わらずとんでもない種族だな、魔族ってのは!



「■■■■■■■■■■!!」

「ッ!」



 直感を頼りに首を傾げる。

 直後、俺の頭があった位置に魔族の放った毒の槍が通過した。

 今の一撃は見えなかったけど、剣精霊達との訓練のお陰で身に着けた直感で避けることができたな……!



「こっちからも行くぞ!」



 フラガラッハを手に魔族へと接近する。

 魔族も、怒号と共に髪を逆立てて迫ってきた。


 行くぞ、【切断】……!


 魔族の体に赤い線が浮かび上がる。しかも急所だけでなく、硬質な爪や角にも赤い線が見えた。

 フラガラッハの能力は【切断】。生物なら命の急所を、物質なら一番脆い部分を浮かび上がらせる力だ。


 しかし剣精霊との訓練を通じ、生物の命だけでなく四肢や爪、角などの直接的には関係のない部位まで赤い線で見ることができるようになった。


 上下左右、まるで振り回すように振るってくる爪を避け、弾き、逸らす。

 たったそれだけなのに、剣と爪で火花が散り、地面がはじけ飛ぶように吹き飛ぶ。。

 まさに剛腕、まさに剛力。どんだけ硬いんだ、こいつの爪は。


 でも、こいつの能力があれば……!



「ハッ!」

「■■!?」



 爪の攻撃を最小限の動きで避け、フラガラッハを斬り上げる。

 直後、硬質な爪は抵抗なく、まるでスライムのように斬り飛ばされた。


 流石のこいつも、まさか自分の一部分を斬られると思ってなかったのか、一瞬硬直する。

 仕掛けるなら今……!



「■■■■■■■■■■■■■■■■!!!!」

「うお!?」



 口から放たれた紫色の液体。それをギリギリのところで避けると、背後の土が煙を上げて溶けた。

 体から溶解液を出すのか、こいつ……!


 バックステップで距離を取る。

 すると、その一瞬の隙に切断面が泡立ち、斬られた爪が生えてきた。

 斬られた箇所が再生するのかよ。魔族ってのは何でもありか。



「■■■■……■■■■■■■■■■■■!」



 魔族が口から毒液を吐くと、それが形を変えていく。

 それはまるで大剣のようなフォルム。この世の負を煮詰めたような禍々しい雰囲気をまとう、異形の大剣だ。


 それを両手に1本ずつ。合計2本作り出した。


 猛毒の特性を持つ大剣が2本……しかもこいつ自体が超剛力。掠れば一瞬であの世行きだ。


 ……いや、臆するな俺。今までやって来たことは無駄じゃない。

 それを今、証明する!



「■■■■■■■■!!」

「フッ……!」



 小さく息を吐き、攻撃の気配を五感と第六感を駆使して感じる。

 剣精霊のように研ぎ澄まされた剣技ではない。力任せに振るう、超暴力の嵐。

 避けるのもギリギリ。反撃しても、魔族の勘なのか寸前で回避される。


 間違いなく、あの時の魔族より強い……!



「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!!!」

「くおっ!?」



 クロスに振り抜かれた剣撃をフラガラッハで受けるも、勢いを殺しきれず吹き飛ばされた。

 やっぱ力では圧倒的に無理か。


 空中で一回転し、崖にぶつかる直前に勢いを殺す。

 が、魔族もその隙を逃すはずなく、一瞬で肉薄してきた。



「■■■■■■■■■■■■■■■■!!」

「ッ!」



 真上から放たれる剣撃の雨。こんな攻撃でかすり傷一つ作れないのは、きつすぎる……!



「■■■■■■!!!!」

「しまッ……!?」



 突如、魔族の蹴りが俺の胴体目掛けて繰り出される。

 だがそのおかげで剣撃の雨は止み、飛び退くように蹴りを避けた。


 ゴオオオオォォォッッッ──!!


 っ! 風圧!



「ガハッ!?」



 突然後ろからの衝撃。

 まさか、風圧で吹き飛ばされて崖に激突したのか……!


 肺の中の空気が口から漏れる。

 痛い。苦しい。でも立ち止まるな、ここで立ち止まったら間違いなく死ぬ……!



「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!!!」



 五感と直感と経験、あとは自分の目を頼りにとにかく避けに徹しまくり――【切断】を使い、大剣の片方を切断した。



「■■■■■■■■■■!?」



 剣を斬られるとは思ってなかったのか、また動きが固まる魔族。

 その隙をついて魔族から距離を取り、呼吸を整える。


 くそ。こんなに強くても、七魔極には遠く及ばないのか……魔族のパワーバランスはどうなってんだ、ちくしょう。

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