絶海の孤島──④
◆
「とんでもない目にあった……」
すっかり日も暮れ、辺りは暗闇に包まれていた。
空には満天の星。それ以外何も見えないほど何も見えない。
フェンリルが集めてくれた枝。
クレアの炎。
スフィアの防御シールドのおかげで、安心して野宿はできる。
だが、遠くから聞こえてくる遠吠えや咆哮のせいで全く休まらない。
あれから歩けば魔物に絡まれ、それを撃退して少し歩けばまた魔物に絡まれる。
その繰り返しのせいで、ほとんど進まなかった。
皆がいなかったら、今頃俺は魔物達の餌になってただろうな。
俺の肩で眠るクレアに気を付けながら、そっと息を吐いた。
「前人未到の大陸やばすぎ」
『ここにいる魔物は、人間を見たことないですからね。肉付きのいい獲物としか思ってないのでしょう』
真顔で怖いこと言わないで。
今も茂みから獰猛な視線が俺を睨んでるんだから。
星明かりでギラつく眼の怖いこと。
『コゥ、ボクが追っ払ってこよっか?』
「……いや、いいよ。スフィアの防御シールドがあるから、ちょっかいは出せないだろうし」
『はい。お任せ下さい』
スフィアが胸を張って誇らしげに頷く。
これからここで暫く生活するんだ。これくらいの環境には慣れないとね。
「……因みにだけど、このペースだと剣の里までどのくらい掛かる?」
『10日程ですね』
「まあ、そりゃそうか……」
あれだけ魔物に足止めされたら、そうなるに決まってる。
だけど、ここでみんなの力を借りると俺の成長に繋がらない。
できるだけ俺だけの力で魔物は倒していきたい。
そんなことを考えつつ、焼いた赤狼の肉にかぶりつく。
臭い。まずい。……けど、食えなくはない。
とにかく腹は膨らませないと。
肉にかぶりつきながら、ふと思ったことをスフィアに問いかけた。
「ねえスフィア。剣の里ってどんな所なの?」
『そうですね……端的に言えば、剣の墓と言えばいいでしょうか』
「………………へ? 剣の墓?」
どういうことだ……? 剣の里が、何で剣の墓になるんだ?
『剣と言うものは、作られた時に大なり小なり精霊が宿るのです。名剣であればあるほど、強い精霊が宿ると言われています』
「……
全ての物質に宿ると言われる幻の魔物、
俺の問いに、スフィアは首を縦に振った。
『剣精霊は剣が破壊されたと同時に実態化し、剣の里に集まります。そう仕向けているのが、剣神ライガということです』
「そうだったのか……てことは、ザッカスさんの作った魔法剣の精霊も……」
『恐らくは、剣の里にいるでしょう』
なるほど、そんなことをしてたんだな、ライガは。
「……あれ? てことは、ライガって
『さあ、そこまでは……ライガなりに考えがあるのでしょう』
……まあ、里に着けばわかることか。
今日はもう休もう。色々とあって疲れた。
フェンリルを呼び、寄りかかって寝ようとすると、フラガラッハが目の端に映った。
何となくそれを抜き、改めて刀身を見る。
漆黒の刀身に、アクアブルーの刃。
こいつにも、剣精霊が宿ってるのか……。
そういや、こいつをザッカスさんから受け取ってからロクにメンテナンスしてないな。
魔族戦のときも、今日も、かなり無理をさせたし。
「スフィア、剣の手入れの仕方教えてくれない?」
『……はい、ご主人様』
俺の要望に、スフィアは優しい笑みで答えてくれた。
その笑みに見とれ……フラガラッハの刀身が僅かに光ったのに、気が付かなかった。
◆
それから3日間。
戦ってはメンテナンスし、メンテナンスしては戦い続けた。
それに常に剣士の技能を付与した状態で戦い続けたことで、体が剣士の動きに慣れてきたぞ。
が、まだまだこの大陸の魔物のレベルには到底及ばず。
「ぐっ──!?」
『ゴアアアアアアアアアッッッ!!!!』
頭に4本の角を生やした、人間の大人3人分のデカさを誇る
刃こぼれしている大太刀を手に、絶叫とも咆哮とも似つかない声を上げ、吹き飛んだ俺に向かって走ってきた。
「くそっ!」
ギリギリのところで身をひるがえし、大太刀の攻撃を回避。
だが、回避した斬撃が地面を大きく抉り、深さ数メートルの穴を空けた。
デカくて速くて強い。
何だそれ、反則だ!
他の
『コハク、
「ああ、それは見えてるけど……ッ!」
魔法の気配……!
これは、刀身での
やばいっ、避けられない……!
──主様、そこじゃ──
妙な声が頭に響いた。
それと同時に世界が急速にゆっくりになる。
……これは何だ……?
何が何だかわからない……。
困惑していると。大太刀の刀身に赤い線が走ってるのが見えた。
あれは、【切断】で見える線……?
……いや、違う。大太刀じゃない……あれは、魔法に浮かび上がっている……?
その線に向かいフラガラッハを振るい、線をなぞるように振るう。
次の瞬間、大太刀にまとっていた風の魔法が
『ガッ!?』
「──ッ! おおおおおお!」
『コゥ、すごい! すごい!』
『やるじゃないコハク! いつの間にあんなのできるようになったのよ!』
『あぁ、流石はご主人様です……!』
手放しで褒めてくれるみんな。
だけど……俺は、今の一瞬の出来事が理解できないでいた。
何だったんだ、今のは……?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます