絶海の孤島──①

 フェンリルに乗って翔ぶこと丸1日。

 フェンリルが俺達を気遣って翔んでくれたおかげで、疲れもなく優雅な空旅となり。


 今眼下に、想像を超えるものが広がっていた。



「これが……孤島だって……?」



 孤島。どころではない。

 こんなの……。



「大陸じゃん……」

『はい、大陸です』

「スフィア。昨日前人未到の絶海の孤島って言ってなかった?」

『はい、前人未到の絶海の孤島です』



 ……? 何を言ってるんだろう、この子は?

 孤島だろ? 孤独な“島”だろ?

 なんで大陸が孤島なんだ……?


 首を捻ると、俺の肩に座っているクレアが説明してくれた。



『コハク。この領域は魔力の磁場を捻じ曲げ、魔法を使えなくさせるの。フェンリルの脚でも丸1日かかる。だからここは、前人未到なのよ』

「孤島ってのは?」

『ここは、人間に用意された場所じゃない。私達幻獣種ファンタズマに用意された場所。故に孤島よ』



 ……なるほど、そういうことか。



「人間には『大陸』に見えるほど広大な土地。でも幻獣種ファンタズマの強大すぎる力の前では、広大な土地も『孤島』になる、か」

『さすが! その通りよ』



 頭撫でないで、恥ずかしいから。



「でも、ロウンさん並の化け物体力なら、泳いで来れそうだけど」

『ご主人様、下をご覧下さい』



 下?

 言われたままに下を覗き見る。と……。


 な、何だ? 海面が盛り上がって……!?


 地響きと共に海面が大きく盛り上がる。

 しかも1箇所じゃない、同時に2箇所も……!


 直後──2種類の巨大な怪物が、海面を吹き飛ばす勢いで姿を現した。


 1体は無数の触手に、無数の目玉、無数の牙を持つ山のように巨大なイカ型の魔物。

 そしてもう1体は、巨大イカより一回り小さいがかなりの大きさのサメ型の魔物。しかも1匹や2匹どころではない。無数に蠢いてる。



「あれは……ヘル・クラーケンに、ナイトメア・シャーク!?」



 怪物、どころの話ではない。


 2体共ミスリル、、、、並の超生物だ──!


 そんな2種類のミスリル級の怪物が、互いを捕食するように暴れ狂う。

 かなり上空にいる俺達にまで、2体がぶつかって生じる衝撃波が迫って来た。



「すごい……」

『この海域には、あのような魔物が住み着いています。人間達からは【死の海域】と呼ばれ恐れられているのです』



 なるほど……確かにこれじゃあ、ロウンさん並の化け物体力を持ってても泳ぎきれないな。途中で食われる。


 生唾を飲み込み怪獣大戦争を見る。

 と、ヘル・クラーケンの脚が1本こっちへ向かって伸びてきた──!



『はぁ? ゲソ風情が一丁前に殺意飛ばしてんじゃないわよ!』



 クレアがキレ気味に手を眼下に向け。



『《インフェルノ》!』



 2体の化け物を遥かに凌駕する巨大な火球を放った。


 火球が2体を飲み込み、海面に叩きつけられる。

 次の瞬間、轟音と共に発生した水蒸気爆発が、遥か上空にいる俺達すら飲み込まんと立ち上った。



『防御シールド展開』



 スフィアが防御シールドを展開。

 防御シールドすら軋むほどの衝撃波が叩き付けられたが、それも数秒で収まった。



『ふふん、どんなもんよ』

『あなたは手加減というものを知らないんですか。ご主人様を危険な目に合わせるとは従者失格ですよ、羽虫』

『ぐっ……! で、でも、あんたが守ってくれるって知ってたから……』

『ぅ……はぁ。これからはもう少し抑えてください』

『ごめん……』



 おぉ……なんだろう。わかんないけど、魔族戦から2人がちょっと仲良くなったような?

 うんうん、仲良きことは美しきかな。


 シュンと落ち込むクレアと、俺の前に座るスフィアの頭を撫でた。



『むぅ……子供扱いすんなぁ……ぬへへ』

『そ、そうですご主人様。突然、その……恥ずかしい、です……』



 何この子達可愛いんだが?



『コゥ、もう少しで着くよ!』

「そうか? じゃ、この辺で降りてくれ」

『わかった!』



 俺の指示でフェンリルが高度を落とす。

 徐々に近づてくる草原。その中央にフェンリルが降り立ち、俺達もフェンリルの背から降りた。


 丸1日ぶりの大地……安心する。



「ふぅ……フェンリル、ご苦労様」

『うへへ! がんばった! ボクがんばった!』



 頭や喉を撫でると尻尾を振って大喜び。相変わらずフェンリルも褒められるの好きだなぁ。


 さて、遥々絶海の孤島大陸へやって来たわけだが。



「見渡す限りの大自然だな」

『この土地が出来てから数千万年、人の手が一切入っていませんからね。人間界には自生していない植物や、この大陸固有の魔物も沢山いますよ』



 マジすか。テイマー天国じゃないか。



「どうせなら散歩しながら剣の里を目指すか……スフィア、目的地はどっち?」

『このまま南東の方角です。お散歩しながらですと、恐らく3日程かかるかと』

「3日ね。じゃ、のんびり行こうか。せっかくここまで来たんだし」



 前人未到の大陸……どんな魔物と出会えるのかな──。

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