魔法武器《フラガラッハ》──⑨
その後ダッカスさんの墓に手を合わせ、俺とザッカスさんは工房へ。アシュアさん達はアレクスの街へと戻って行った。
「コハクさん。すまなかった、ぼこすか殴っちまって」
「いえ、大丈夫です。それとコハクと呼んでください。その方が気兼ねないんで」
「……ありがとう、コハク。さあ、入ってくれ」
ザッカスさんに促されて家の中に入る。
工房は家と一体になっているらしい。
入口から先はリビング。その奥が工房になっている。
工房の中には、剣を作るであろう様々な道具や設備が備わっていた。
長年入ってこなかったのか、全体的に埃を被っている。
「ここに来るのも、3年ぶりか……悪かったな、お前達」
ザッカスさんが憂いを帯びた目で道具に触れる。
多分ここは、ダッカスさんとの思い出が詰まった場所なんだろうな……。
『ここが、世界最高の鍛治職人の工房ですか……』
『ここ、落ち着くわ。私火精霊だから、火を使う場所が好きなのよね』
『ボクは埃くさい……』
スフィアは物珍しそうに工房を見渡し。
クレアは目を輝かせて飛び回り。
フェンリルは鼻を抑えて辛そうだ。
ごめん、フェンリル。もう少し我慢してね。
「まずは設備の点検。あとは掃除だな」
「ザッカスさん、点検と掃除は、俺の使い魔に任せてください」
「使い魔?
「はい。1人、こういった設備関係で強い味方がいるので」
「なら頼む。……って、そういや鉄鉱石も魔水晶も酒代で売り払っちまったんだった。どうするか……」
「ああ、それなら問題ないですよ」
腰の麻袋から取り出した鉄鉱石と魔水晶。
それを見たザッカスさんは、目を輝かせた。
「こいつは……とんでもねー上玉だ……! 鉄鉱石もそうだが、魔水晶の純度が半端じゃねぇ……!」
「これでどうにかなりませんか?」
「なるなる! むしろ良すぎるくらいだ! ははっ、こりゃあ腕が鳴るぜ!」
鉄鉱石と魔水晶を手に、俺に燃え盛るような目を向けた。
「コハク、俺はやるぜ! 俺の名にかけて、世界最高の剣を作ってやる!」
「よ、よろしくお願いします!」
「よーし! そうと決まれば打ち合わせだ! 俺とコハク、2人で納得が行くまで語らおうや!」
リビングに戻ると、棚から酒、つまみ、それに数枚の紙とペンを持ち出した。
「コハク、あんた飲めるかい?」
「あ、はい。多少は……お酒飲みながら打ち合わせするんですか?」
「今日は最高の日だ。ダッカスも、これくらいは許してくれるだろうさ」
「……ですね。じゃあ、頂きます」
「おう」
上等な葡萄酒に、カップが3つ。
俺とザッカスさんの前に1つずつ置き、誰もいない席に1つ。
「それじゃあ、俺達の出会いに。そしてダッカスに」
「ええ」
カップを手に持ち、ザッカスさんと空いてる席のカップにぶつけ──。
「「乾杯」」
◆
「──そうか。ザッカスが打てるようになったか」
「はい、マスター」
バトルギルド、最奥。
ギルドマスター室にて、2人の男が密談していた。
1人の男はアシュア。
手を後ろで組み、マスターと呼んだ男へ報告をしていた。
そしてもう1人。まるで少年のような出で立ちの男だった。
黒い髪。赤い瞳。
筋骨隆々という訳でも、刺青が入っている訳でもない。
少年のようにしか見えない華奢な体躯。
座ってはいるが、立っても少年のような印象は覆らないだろう。
だが、腕を組んで座っている姿には威厳があり、カリスマがあり……有無を言わせぬ圧があった。
バトルギルド、ギルドマスター。
レオン・レベラードである。
レオンはほっと息をつき、目を閉じた。
「よかった……彼のことは心配していたんだ。よくやった、アシュア」
「いえ、それが……彼を救ったのは俺ではなく、別の人物でして」
「……なに? コルか? ロウンか? それとも他のメンバーか?」
「うちのハンターではありません。テイマーギルドのハンターです」
「──まさか」
「はい。
最近、噂では聞いていた。
伝説の魔物、
まさか噂ではなく、本当だったなんて。
「詳しく聞かせてくれ」
「はい。ですが一部憶測もあります」
「構わない」
アシュアは報告した。
その場に魔水晶があったこと。
恐らく、魔水晶を持ってザッカスの元を訪れたこと。
ダッカスのことを聞き、リッチを倒して死霊の魔石を手に入れたこと。
憶測も混じえた報告に、レオンは乾いた笑みを浮かべ、こめかみを抑えた。
「はは……デス・スパイダーの亜種にリッチだって? 2つとも
「ですが、本当です」
「……もしそれが本当なら、是非ともうちのギルドに欲しいものだね」
レオンは目を閉じて思案する。
アシュアが嘘をついているとは思っていない。
彼のことは、自分がよくわかっている。
こんなくだらない嘘をつく理由もない。
だけど、全てを鵜呑みにすることもできない。
「……後日、その青年に会いに行く。アシュア、君も一緒だ」
「承知しました、マスター」
アシュアは頭を下げると、ギルドマスター室を出る。
1人残ったレオンは、書架に並んだ本の1冊を引き抜いた。
「伝説のテイマーか……まさか、実在していたなんてね」
ハードカバーの読み古した本。
日焼けも酷く、表紙には何も書いていない。
だが、背表紙にはある文字だけくっきりと浮かび上がっていた。
──【英雄譚】、と。
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