魔法武器《フラガラッハ》──④

「お待たせしました、コハクさん」

「あ、いえ」



 ギルドに戻り、サリアさんに連れられて応接室へ入る。

 かなりの額になったみたいで、人前では渡せないらしい。


 いったい、どれくらいになったんだろう。


 ちょっと楽しみに待っていると、奥の扉から別の職員の方が入ってきた。

 手にはフェルト生地のトレー。

 その上に、見たことないほどの金貨の山が……。



「こちら上質な鉄鉱石900キロを換金しましたので、白金貨1枚、金貨80枚となります」

「白金貨1枚に金貨80枚!?」

「鉄鉱石は1キロあたり銀貨5枚が相場ですが、上質な鉄鉱石は1キロあたり銀貨20枚になりますので」



 なんてこった。ブロンズプレートなのに、ゴールドプレート並に稼いでしまった……!



「……待ってください。これが鉄鉱石分の換金額ということは……」

「はい。続いて魔水晶の換金になります」



 続いて別の職員が入ってくる。

 同じくフェルト生地のトレー。

 だが、さっきみたいに金貨の山はできていないな。



「魔水晶の相場は、1キロあたり金貨1枚。それが300キロありましたので、白金貨3枚になります」

「はがっ……!?」



 変な声出た。


 だって白金貨3枚だよ! 合計白金貨4枚、金貨80枚だよ!

 世間一般に見れば金持ち!

 ザッカスさんの魔法武器なら4本! 家なら少し大きめの家が買えるくらい!


 と、とんでもないことになってしまった……!


 ……これは、採取クエストの巨匠と呼ばれても否定できなくなった。



「更にレゾン鉱脈採掘クエストの依頼達成料として、銅貨80枚です」

「ありがとう、ございます……」



 もはやネタとしか思えない、目の前に積まれたお金の山。

 ドッキリかなにかかと疑ってしまう。


 サリアさん達が3つの麻袋に白金貨、金貨、銅貨を分けて入れてくれた。



「お待たせしました。お持ちくださいませ」

「は、はい……」



 ズシッ。うっ、重い……。

 3つの袋をスフィアに渡すと、恭しく受け取った。


 どうしよう、このお金……。


 ……いや、今はそれどころじゃない。

 アシュアさん達はもう戻ってるだろうし、早くバトルギルドへ向かおう。



「サリアさん、ありがとうございました。それじゃ、これで」

「あっ、まだお話が……! ……行ってしまいました。もう、せっかちさんですねっ」



   ◆◆◆



 テイマーギルドを飛び出し、バトルギルドに向かう。


 場所はさほど離れていない。大通りを3つほど横切った場所だ。

 だけど……なんだか人通りの人相というか、雰囲気が違う。


 テイマーギルドのある通りは、皆ほんわかした雰囲気だ。たまにガラの悪い人もいるけど、それはハンターだから仕方ないだろう。


 でもここは違う。



「ってぇな。ぶつかってんじゃねぇよクルァ!」

「テメェがぶつかったんだろゴルァ!」

「だーかーら! まけろっつってんだろクソジジイ!」

「じゃかあしゃあ小娘! 買わないなら帰れ!」



 老若男女、ガラが悪い。

 え、ええ……こんなところにバトルギルドあるの……?

 ターコライズ王国の方がまだ治安はよかったよ……。



「イッヒッヒ。お兄さん、見ない顔だね」

「……えっ。あ、俺ですか?」



 突然、腰の曲がった老婆に話し掛けられた。



「イッヒッヒ。お兄さん、疲れてるね」

「そう見えます?」

「ああ、見えるともさ。そんなお兄さんに、いいものをやろう」



 いいもの?

 老婆は懐に手を入れると、ガラス瓶を取り出した。

 中には、細かい白い粉が入っている。



「これは?」

「一度こいつをキメれば、疲れなんて吹っ飛び極楽を味わえる代物さ」

「やばいブツじゃないですか!?」

「今ならたったの金貨20枚さね」

「たっか!?」



 なんてこった! ここはこんなものまで売ってるのか!



『ご主人様。こちらただの砂糖です』

「砂糖かよ!」



 しかもよりによって、ただの砂糖かよ!



「イッヒッヒ。よく見抜いたね。さあ、金貨20枚さ」

「買いません! 買いませんから!」



 急いで老婆から離れ、バトルギルドへ向けて走った。

 バトルギルドは、血の気の多い人が集まっているギルドだ。だからその周りも、ガラの悪い人達が集まるらしいけど……まさかここまでとは。



『あっ、コハク。あれがバトルギルドみたいよ』



 クレアが指さした先。

「僕達荒くれ者です」と言った風格を漂わせる建物。

 入口の左右には、龍種ドラゴンの首を掲げている筋骨隆々な男の石像が立っている。

 建物の周りにも、ヤバそうな人達がたくさんいて……なるほど、いかにもな建物だ。


 思わず固唾を飲み込んだ。



「……い、行こう」



 周囲からの訝しげな視線を受けながら、バトルギルドの中に入る。



「うぐっ……!」



 た、タバコ臭い……! それに酒も……!



『うぅ……コゥ、くしゃい……』

「だ、だね……スフィア」

『はい。防臭フィールドを展開致します』



 スフィアを中心に、半透明の結界のようなものが張られる。

 防臭フィールドの名の通り、臭いが気にならなくなった。


 はぁ……助かった。

 とりあえず、まずは受付で──。



「あぁん? おい見ろよ、テイマーの優男が紛れ込んでるぜ」

「げひひひひ! しかもブロンズかよ!」

「だがよ、金の匂いがぷんぷんするぜ」



 え……か、囲まれたっ。



「な、なんですか、あなた達は」

「げひひひひ! なぁに。ここはテイマーギルドじゃねーって優しく教えてやってるだけよ」

「迷子なら送ってやるぜ」

「その代わり、有り金全部置いてってもらうがなぁ! ぎゃはははははははは!」



 っ……ターコライズ王国のときもそうだったけど、バトルギルドのハンターはなんでこうガラが悪いんだ……!



『コハク、我慢できないわ。殺すわよ』

『咬み殺す? それとも丸呑み?』

『吹き飛ばします。頭を』



 くっ……ここで皆を止められなきゃ、俺は他ギルドで暴れた犯罪者になってしまう!

 なんとか逃げないと……!



「ま、待ってください。俺はある人に用があって……」

「ある人ぉ? ここにテメェみてーなひょろっちい優男の知り合いがいるのかぁ? はっはー! 誰だよそりゃあよぉ! こーんな雑魚テイマーと知り合いなんざ、バトルギルドの恥晒しってもんだぜぇ!」

「「ぎゃはははははははは!」」






「悪いね、恥晒しで」






 ピシッ──。


 空気が固まった。いや、凍った。


 全員の視線が、今しがたギルドに入って来た男に注がれる。

 この凶悪で粗暴なギルドにおいて、まるでブレることのない1本の軸が体を貫いている……そんな印象を持たせる男が3人、そこにいた。



「アシュアさん、コルさん、ロウンさん!」

「やあコハクくん。早速会いに来てくれたのか。嬉しいよ」



 アシュアさんは、優しい笑みを浮かべて俺を歓迎してくれた。

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