【SF?】モテ薬を作ってモテモテになろうとした男の末路

「ふひひひ……」


 とある国にある小さな研究所。

 その実験室で、一人の男がフラスコを揺らしながら不気味に笑っていた。フラスコの中には深緑色のドロドロとした液体が入っている。


「ついに、ついに、ついにっできたぞ!」


 男が作っていたのは、モテ薬だった。

 モテ薬とは、その名の通りモテモテになることができる薬だ。

 詳しい原理は秘密だが、モテ薬を飲むと、ある種のフェロモン(男はそれをモテモテフェロモンと呼んでいた)を大量に放出する。そのフェロモンを吸い込み、脳が感知すると、フェロモンを発した人間のことが好きで好きでたまらなくなる――というわけだ。


「これで俺もモテ男だ」


 男はモテなかった。

 冴えない顔に、貧弱な体。コミュニケーションの能力が低く、とくに女性相手だとうまく話せない。

 普通ならモテるために話術や肉体を鍛えたり、お洒落をするべきなのだが、この男はなぜかモテ薬を作ろう、と思い立った。一般人とは思考のベクトルがいささか異なるのである。どう考えてもモテ薬を作るより、お洒落などをした方が簡単だと思うが……。


 そうだ、モテ薬を作ろうっ!

 そう思う人間はたくさんいるだろう。しかし、実際にモテ薬を作ることができる人間はめったにいない。男は科学者としては天才だった。一年足らずで、悲願を成し遂げてしまったのだから。


 マウスなどの動物実験の成果は上々だった。人間で試したことはないが、自分以外の奴がモテモテになるのは癪だった。

 なので、男は人体実験をせず――いや、自らが実験体となった。

 ごくごく、と。

 モテ薬を飲み干す。味は青汁を濃縮して様々なスパイスをぶち込んで、腐らせたような感じ――つまり、まあ、非常にまずかった。

 だがしかし、良薬は口に苦しとも言う。

 これでモテ薬が異常においしかったら、それはそれで不信感を覚える。やはり、薬というのはまずくてなんぼのものだ。

 飲んだ瞬間、自らがモテ男になったことを男は実感した。具体的にはよくわからないが、今の自分はどんなイケメンよりもモテる。感覚的にそれがわかった。


「ふははははっ!」


 男は高らかに笑った。

 さあ、新たなる人生の始まりだ。

 ハーレムを超えたハーレム。今まで自分のことを見向きもしなかった女、自分のことを蔑んできた女、あらゆる女が自分に惚れるのだ。

 男はスキップをしながら、街へと駆け出した。


 ◇


 男の家は丘の上にあった。

 すぐ近くの街へ行くのに、小さな森を抜ける必要があった。この森には魔獣なんかも住んでいるが、奴らは日中はぐっすりと眠っている。よほどのことをしなければ、奴らは起きない。


「ふひひひひ……」


 森を両断するように開かれた道を、男は笑顔で走る。研究所にひきこもりがちな彼にとって、『走る』という行為は不慣れで、苦痛であるのだが、今は一刻も早く街へ出て、薬の効能を確かめたい。

 うきうきで男が走っていると――。



 熊のような魔獣があらわれた。



「な、どうして……? 寝てる時間のはずなのに……」


 熊だけではなかった。方々から魔獣や昆虫、鳥……この森にすむありとあらゆる生物が、男に引き寄せられるように現れた。


「な、なんだ……? 何が起きているというのだ!?」


 混乱しつつ叫んだ――ところで、気が付いた。


「そうか! モテ薬が効くのは、人間だけではないのかっ!」


 男がモテたかったのは、もちろん『人間の女』からである。

 しかし、モテ薬の効力は人間の女だけではなく、ありとあらゆる生物の雌に及ぶ。そのことに男は気づけなかった。

 男に効力が及ばないように、とは調整をしたのだが、人間以外の女に対しての調整はしなかった。動物実験ではネズミならネズミの男女しか――つまり、同種しか――用意していなかったので、気づけなかったのだ。

 男に向かって、森にすむ生物たちが一斉に襲い掛かった。


「や、やめ……――」

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