第163話 その頃カイトは、ヒアデス

 俺が連れてこられたヒアデスは、元国王付きの執事アインによると、現在は連邦の首都であるアルデバラン星系に含まれる一つの星団に過ぎない。

 十個の星からなっていて、連邦になる前は、ヒアデス王国という、独立した国であった。

 ただ、国を構成していた星の数は多かったが、小さな星の集まりでしかなく、国力的には小国であった。

 そのため、連邦が成立した際、アルデバラン星系に組み込まれ、国としての独立を失った。


 今でも、王室は残されているが、王族がヒアデスの政治に関わることはない。

 ただ、名前が残されているに過ぎないのである。


 しかも、現在は王が崩御し、その娘の七人の王女が、誰が王になるかで揉めているということだ。


「それで、俺がヒアデス王家と血縁関係だというのは間違い無いのか?」

「それは間違いありません。ただ、正確にはアデス王家の血を引いているということです」


 アデス王家とは、ヒアデス王家の前身で、アデス王家が、ヒアデス王家とプレアデス王家に分かれたそうだ。

 プレアデス王家の方は、連邦になったのちもプレアデス星系を治めている。


 アインの話が本当なら、俺の母親はプレアデス王家の末姫だったらしい。

 あの八百屋の母ちゃんがお姫様だったとはとても信じられないが、両親が結婚した当時の報道の記録も残っているので、嘘ではないようだ。


 それにしたって、いったい何代前の血の繋がりだろう。とても血縁関係にあるとはいえない気がするが。


「カイト様が、姫様のうちのどなたかを娶って、王になればきっとヒアデスも安泰です」


 メイドのアマテルが、にこやかに喋りながらお茶を入れ直す。


「それなんだが、姫の誰かに婿を取らせるなら、別に俺である必要はないだろう」

「いえいえ、カイト様は王族の籍を外れているとはいえ、プレアデス王のひ孫に当たります。これ以上に適した方はおりません」


 これは……、普通の王家の子息には、相手にしてもらえないということだろうか? それで、俺にお鉢が回ってきたということか?


「とにかく、一度姫様方とお会いになさってくださいませ。どの姫様も魅力的な方ばかりですよ」


 ということで、姫様方と顔合わせをしたのだが。


「長女のコローニスです」

「次女のエウドーラーです」

「三女のポリュクソーです」

「四女のアムブロシアーです」

「五女のペディーレーです」

「六女のピュートーです」

「七女のテュオーネーです」


 クローンではないかと見間違えるほどの、よく似た容姿の七人の娘が出てきた。


「あのー、七人とも同じに見えるのだが……」

 隣にいたアマテルに問いかけると、「姫様方は七つ子ですから」という答えが返ってきた。

 ある意味、クローンで合っていた。


 俺では、誰が誰か区別がつかない。

 これでは、誰を選んでも同じである。

 さて、どうしたものか……。


「初めまして、カイトといいます」


 とりあえず、頭を下げて挨拶をしておく。


 その後は、七人による押し付け合いが始まった。

 誰も、俺と結婚したくないようで、心が折れそうだった。


 大体、誰が王になるかで揉めていると聞いていたが、それは、王になりたい者が多くて、揉めているのではなかった。全員が王になりたくなくて揉めていたのだ。

 お互いに王位を押し付け合って、誰も王になりたがらなかったのだ。


「姫様方、そんなことをおっしゃっていると、ヒアデスは散り散りになってしまい、王家も途絶えてしまうのですよ」


 執事のアインが諌めるが、聞く耳を持たないようだ。


「そんなこと言ったって、私だけに責任を押し付けられるのは嫌だわ」

「私だって嫌よ」

「そうよね」

「そうそう」


「皆さん、自分一人だけに責任がのしかかるのが嫌なのですね?」

「そうね」

「うんうん」

「みんな平等でないとね」


「それでしたら、姫様方全員カイト様と結婚していただきます」

 アインが、とんでもないことを言い出した。


「「「「「「「えーー!」」」」」」」

「そんな無茶な!」

 姫様方から悲鳴が上がり、俺も思わず大声を上げてしまった。


「それでしたら、誰か一人に責任がいくわけでもなく、皆様平等です」

 アインが、なおも説得を進める。


「どうなのそれ?」

「でもありかな?」

「そうね。検討する余地はあるわね」

「そうそう」


「それでは、七人とも婚約者ということでよろしいですか?」

 姫様方の意見が賛成に傾きかけたところで、アインが強引に話をまとめた。


「「「「「「「いいとも!」」」」」」」


 軽! 返事が軽いな。

 というか、俺の意見は?

 聞いてもらえないのかな?


 何か、いきなり七人も婚約者ができてしまった。今まで女性にモテたことはないのに。これがモテ期というやつか?


「それでは、カイト様、姫様方と婚約したことを、プレアデスの王太子に伝えましょう」

「プレアデスの王太子?」


「カイト様のお爺様に当たります」

「ああ、そうか。プレアデスの王太子が俺の爺さんになるのか。そういうことなら連絡した方がいいのか……」


「さあさあ、こちらです。姫様方もこちらに。今、プレアデスとホットラインを繋ぎますね」

「ホットラインなんて物があるのか?」


「ヒアデスとプレアデスは元々一つの王家でしたので、今でも繋がりが深いのです」


 助けてくれる親類がそばにいるということは、いいことだよな。


「さあ、つながりましたぞ」


 スクリーンに相手の王太子が映し出される。

 これが俺のお爺ちゃんか……。なんと挨拶をしよう。


「えーと、カイトです。初めまして」

『カイト?! メロペーの息子のカイトなのか!』


「あ、はい。そのカイトです」

『カイト! 無事だったのかい』


「母ちゃん! なんでそこに?」

『連れ去られたと聞いて探しに来たんだよ』


「別に連れ去られたわけではないんだけどな……」

『あんなメモ一枚で突然いなくなったら、連れ去られたと思うのが普通でしょ』


「なんだ、ステファもいたのか」

『ステファもいたのかじゃないわよ‼︎』


『そうですよ。皆さんどれだけ心配したか……』

「ヨーコちゃん……。心配かけてごめん」


『それで、そっちはどういう状況なのよ!』

「えーと。こちらの姫様と婚約しました」


『婚約した?! もしかして、後ろにいる娘がそうなの?』

「そうだね」


『それで、その内の誰と婚約したの?』

「……七人全員となんだけど」


『……。そう、それはおめでとうございます。それじゃあヨーコちゃん、私たちはセイヤの所に向かいましょうか……』

『そうですね、ステファさん。カイトさんのことはほっといて、セイヤ様の所に急ぎましょう』


「あー! 二人ともちょっと待ってよ!」

『まだ、何かあるの?』

 ステファとヨーコちゃんの視線が冷たい。


「え、いや、特にはないんだけど……」

「少しお待ちください。そちらは、シリウス皇国のステファニア様でいらっしゃいますよね?」


『そうですが、そちらは?』

「執事のアインでございます」


『その、執事のアインさんが私に何か用?』

「いくつか、事実確認をいたしたいので、少々お時間をいただきたいのです」


『事実確認? まあ、いいですけど……』

「ありがとうございます」


 アインはいったい何を確認したいというのだろうか?

 俺とステファなら、ただの友達だぞ! そういう関係ではないからな!


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