第87話「リスタート!」

 いろいろあったが……

 王国騎士隊所属の強靭な魔法騎士、ジュリエッタ・エモニエが加わり、局員は5名。

 局長のシモンと秘書のエステルを合わせて、計7名となる。

 まだまだ人数は足りないが、体裁は一応整った。

 支援開発戦略局発進の仕切り直し、リスタートである。


 ここで人事部からジュリエッタの資料が届いた。

 シモンはじっくり読み込み、不明な点は本人にも確認を取る。

 彼女は風の属性を持ち、攻防の魔法を得意としているようだ。


 シモンは、いろいろ考えをめぐらし、出張先における警護役を、特に女子局員の警護担当を依頼する。

 ジュリエッタは快諾し、これで『武』の担当はシモン、ジョゼフに加え、計3名となる。


 頃合いと見たエステルが、ジュリエッタに局員へ配布したのと同じ小村の資料を渡し、昨日から続く打合せは再開される。

 昨日の打合せの提起により、当面の課題も絞られて来た。


 まずは治安維持と食料の確保。

 土壁的防護柵の補強、農地拡張と|灌漑《かんがい)。

 当面の食料を始め、生活物資の支援。


 土木作業における作業員の雇用。

 普及用住宅の設計と提案。

 これらに伴う概要と見積もり。


 これらの方法と必要経費を確認しつつ、クリアして行く。

 ジュリエッタは各課題について、一般的な知識はあるらしい。

 だが、専門用語が飛び交う会話をじっと聞き、時折メモをとっていた。

ファーストインプレッションこそ宜しくなかったが、基本的には冷静かつ真面目な性格らしい。


 課題解決の進め方はシンプルである。

 決定事項を精査し、不足部分を討論して行くのだ。


「はいっ!」


 発言許可を求めたのは、農業の専門家バルテレミー・コンスタンである。


「局長、開拓地における新農法の提案をさせてくださいっ!」


「分かった、バルテレミー、話してくれないか」


「了解です。私が提案するのは、三圃式農業でありますっ!」


「ほう、三圃式農業……簡潔に説明してくれるか?」


「はい! 従来、ティーグル王国の農法は二圃式農業です。耕地を二分し、一方に穀物栽培を行い,他方は休閑地として地力の回復と土壌水の確保をはかり、年次を追って両者を交代させていくやり方です。


 対して、三圃式農業は、簡単に言えば3年単位の輪作です。農地を冬穀、秋蒔きの小麦やライ麦。夏穀、春蒔きの大麦、燕麦、豆等。そして休耕地の3つに区分し、ローテーションを組んで耕作する農法であります」


「成る程。そのメリットは?」


「はい! 主に生産力の向上を目指します。補足するならば、連作障害等による農地力の低下を防ぐことを目的としております」


「うん、連作障害とは、同じ作物を作り続けることで起きる生育障害だ。三圃式農業を採用する事で、生産力が落ちるリスクをより防ぐという事だな?」


「はい! そして休耕地には家畜を放牧し、その排泄物を肥料として土地を回復させる役割を果たすように致します」


「そうか! 今回、開拓を行うのは小村の農地、大規模な農地で行う前のテストモデルとして試す価値があるという事だな?」


「はい! 局長のおっしゃる通りですっ!」


 ここでシモンは冒険者ギルドサブマスター、ジョゼフ・オーバンへ問う。


「ジョゼフ、貴方は農民出身だったな。どう思う?」


「はい、局長。私は行った事のないやり方ですが、バルテレミーの言っている事は理にかなっていると思われます」


「よし! この一連に関して、何か意見のある者はいるか?」


「はいっ!」


 手を挙げたのは、先ほどバルテレミーの提案に賛同したジョゼフである。


「私と懇意にしているランカー冒険者で、農民出身の強者が何名かおります。全員、誠実で勤勉ですから警備役を兼ね、今回の案件に関し、臨時雇いするのはいかがでしょう?」


「……了解。一応、面接は行う。まずはプロフィールとギャランティーの算出をして資料を提出してくれ。俺とエステルですぐチェックをするから、OKを出したら、早々に呼び出しをしてくれないか」


「かしこまりました! 局長のご期待に沿うような人材を、必ずやピックアップ致しますっ」


「はいっ!」


 シモンとジョゼフのやりとりを聞いていた建築の専門家イネス・アントワーヌが挙手をした。


「イネス、発言してくれ」


「はい! 先に局長に命じられた土木作業における作業員の雇用。普及用住宅の設計と提案。これらに伴う概要と見積もりは明日にはご提出出来ますっ! それと今の話で私も思いつきました。私の実家に勤める工務のプロを臨時雇いし、現場で指揮管理を補助させたいと思います。いかがでしょうか?」


「分かった。先に命じた課題の資料とともにプロフィールとギャランティーの資料を添付してくれ」


「了解ですっ!」


 そして、今度はシモンが挙手した。


「そうだ。物資の運搬に関しては、全て俺に任せてくれ」


 シモンはそう言うと、左腕を高々と掲げた。

 手首には腕輪が装着されていた。

 先ほど、ジュリエッタと腕相撲をした際、リングとなった『樽』を取り出した魔法の収納腕輪である。


「この腕輪は、高位の空間魔法を付呪エンチャントし、俺が自作した。容量は……この王都グランシャリオがまるまる入る大きさだ」


「「「「「「おおおおおおおおおおおおっ!!!」」」」」」


 シモンがきっぱり言い放つと、エステルも含め、局員達は驚きと期待で大きくどよめいたのである。

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