第68話「商いのプロを探せ③」

「モルガーヌさん、まずは小村で俺が倒したオークの皮を使い、防具なりなんなりと商品化して大いに儲けてください」


「………………」


「腕の良い職人へ依頼し、高品質の商品にしてください、お願いします。そして王国復興開拓省が得た利益の方はほとんど村へ還元するつもりです」


 シモンはそう言うと、まっすぐモルガーヌを見つめた。


「………………」


 なぜかモルガーヌは、シモンの懇願にはすぐに答えなかった。

 

 軽く息を吐き、確かめるように、シモンへ尋ねて来る。


「……シモンさんには驚いたわね。ひとりでそれも100体以上倒したの、オークを、たった1日で」


「はい。エステルが言った通り、夕方と翌日の午前の、合わせて延べ1日です」


「延べ1日……」


「でもトレジャーハンターやってた時は、いろいろな魔物とやり合うのは日常茶飯事でしたから。世界各地の遺跡とか迷宮で」


 シモンは先日の『研修』で倒したオークの亡きがらを全て大容量の収納腕輪に仕舞っていた。

 

 だが……

 実は、他にも『魔物の皮』はあるのだ。

 それもドラゴンからゴブリンまで、夥しい種類と数がである。

 

 シモンは、トレジャーハンター時代に倒した価値のありそうな魔物の亡きがらを、数多貯めてある。

 現時点では、エステルも含め、誰にも内緒である。


「シモンさん」


「はい」


「そこまで強くなるには、相当な修羅場も経験したでしょう?」


「はあ、しょっぱなは学校を卒業したばかりの時です。騙されて入社したコルボー商会の研修でした。いきなり魔物だらけの森へ連れていかれ、生きた心地もしませんでした」


「あの……もしかして何度か、死にかけたとか?」


「ええ、もしかしてではなく、何度も何度も死にかけました。ゴブリンの大群数百体にたったひとり囲まれたり……とかですね」


「!!!!」


 シモンがあっさり肯定すると、モルガーヌは絶句した。


「当時は、一日生き延びるごとに、今日も生き残れたって、創世神様に凄く感謝していましたよ」


 淡々と語るシモンをエステルが心配そうに見つめていた。

 そして我慢出来なくなったのだろう。

 遂に口を開く。


「局長!」


「お、おお、いきなり何だい、エステル」


「今後は絶対に! 無理をしてはいけませんっ! 約束ですよっ!」


 エステルがシモンへ向ける眼差しは真剣だった。

 綺麗な唇も、「ぎゅっ」と固く締められている。


 こうなるとシモンも真面目に答え、約束するしかない。


「分かった! 約束する、気を付けるよ」


「ええ、絶対に守ってくださいね」


「だが、エステル」


「はい、何でしょう?」


「魔物に襲われ、災害に難儀する人を助けるには、こちらも命をかける覚悟で身体を張らなきゃな。特に今の俺はエステルを始め、局員達を守る立場でもあるのだから」


 シモンの言葉を聞き、エステルも納得。

 覚悟も決めたようである。 


「分かりました、局長。私も命をかける覚悟で仕事に臨みます。死ぬ時は一緒です」


 シモンとエステルのやりとりを見守るモルガーヌは、柔らかく微笑む。


「うふふ、おふたりは本当に良いコンビね。私、ますます応援したくなっちゃった」


 モルガーヌは更に言葉を続ける。


「よし! シモンさんが討伐したオークの皮はウチで全部買い取ります。そして頂いた村の資料を基に復興と支援策のプランニング、実行の手配の段取りを急いで組みますね」


「ありがとうございます。それらに伴う見積もりもお願いします。ちゃんとギルドに利益が出る金額にしてください。その上でご相談しましょう」


「分かりました」


「ちなみに現品は俺の魔法腕輪に収納してありますから、この打合せ後に納品します」


「もろもろ了解しました。じゃあ、話がまとまったところでランチにしましょう。それと王国復興開拓省に出向させる形でウチのギルドから『人』を出します」


「おお、それはとてもありがたいです。ウチはまだまだ人手不足ですから。その方は、いつからいらして頂けますか?」


「うふふ、お望みとあらば、いつからでも!」


「では本当に急なのですが、我が支援開発戦略局の局員が週明けの月曜日に全員揃います。その方も月曜日の朝8時30分に王国復興開拓省1階のロビーにいらして頂き、面会の旨をエステル経由で伝えて貰えますか? その上で、局員全員へ紹介します」


「了解致しました。本当は私が直接お手伝いしたいのですが、そうもいきませんから」


「ありがとうございます! それでどなたがいらして頂けるのですか?」


「はい、『私の妹』を出向させます。手前味噌ですが、中々優秀な子ですよ。これから呼びますから、彼女の紹介を兼ねランチを食べながら、一緒に話しましょう」


「分かりました」


「この部屋の隣の大会議室にケータリングで料理と飲み物を用意してあります。後の話は食事をしながら致しましょう」


 モルガーヌはそう言うと、再び「にっこり」と微笑んだのである。

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