第66話「商いのプロを探せ①」
翌朝午前8時15分……
定時の8時30分に早すぎず、遅すぎず……
もうお約束となっている出勤パターン。
シモンとエステルは、きっちりと出勤し、局長室で打合せに入っている。
「局長、おはようございます!」
「おはよう、エステル」
「いつも通り、朝一番で、ご報告申し上げます」
「お疲れ様。じゃあ、聞かせてくれるか」
「はい、昨日冒険者ギルドから、ウチの省へ出向が決まったサブマスターのジョゼフ・オーバンですが、審査部から異動するイネス・アントワーヌ、バルテレミー・コンスタンとともに来週明けの月曜日に登庁、支援開発戦略局へ出勤致します」
「分かった。休み明けの月曜日に局員が全員出勤だな?」
「はい、全員揃います」
「よし! でも人材はまだまだ足りない」
「ですね!」
「ジョゼフを始め、冒険者ギルドは人材の宝庫だと思う。出向の問い合わせをするのは勿論、こちらから案件を依頼し、しっかりと完遂して貰った冒険者は常にチェックしておこう。窓口のレナさんへ伝えておいてくれ」
「了解致しました。現在課題となっている小村の復興や討伐依頼をテストパターンとして、次官補経由で、冒険者ギルドからの人材確保に努めれば宜しいと思います」
「了解。それと俺達もこの局長室から3階の支援開発戦略局のオフィスとの往復となるな。エステルは秘書ルームとかけもち3つか、お疲れ様」
「いえいえ、全然大丈夫です。更に申し上げますと、私達の支援開発戦略局は出張が非常に多いです。だから、私達を含め、局員の殆どがオフィスに不在の事が多くなると思われます」
「了解。常時在局して、オペレーション対応をして貰う事務方の人間を、何人か回して貰おう。人事部へ申し入れしておいてくれ。以前チェックした人事部のリストも再チェックしよう」
「了解致しました。王国労働局へ申請した求人票に対しても、早くも何件かの問い合わせが人事部へあったそうです。精査して貰った上で、こちらへ資料を回して貰うように致します」
「よし! 今日は商業ギルド訪問だな。連日のランチ懇親会か」
「はい、連日の懇親ランチですね。訪問時間は昨日の冒険者ギルドと同じく午前11時です。私も同行し、局長とふたりで先方を訪問致します。本日お会いするのは商業ギルドのマスター、モルガーヌ・オリオール氏です」
「了解。話しやすい方だと良いな」
「ですね! 午前中の出発までのお時間、及び商業ギルドからお戻りになった午後のお時間は小村の支援復興と討伐案件のプラン立案具体化に充てれば宜しいかと思います」
「了解! じゃあ、今日も頑張ろう」
「はい、頑張りましょう」
という事で、今日もシモンとエステルの仕事は始まったのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
王都の中央広場に隣接している、多くの商会が建ち並ぶ商業街区。
その中でひと際目立つ3階建ての建物が、ティーグル王国の経済を取り仕切る商業ギルドである。
午前10時45分。
シモンとエステルは、名乗った上で受付に訪問の趣旨を申し入れると、すぐギルドマスター室へ通された。
「初めまして、王国復興開拓省局長シモン・アーシュと申します」
「局長専属秘書のエステル・ソワイエと申します」
「こちらこそ、初めまして。ティーグル王国商業ギルドマスターのモルガーヌ・オリオールでございます」
ギルドマスターのモルガーヌは、年齢40代後半。
豊かな栗毛の髪を後ろで束ねた容姿端麗の美人。
いかにも切れ者というアレクサンドラとは、また違ったタイプの美魔女である。
そう……
モルガーヌも魔法大学出身の魔法使いで、シモンとエステルの先輩にあたる。
ハイレベルの鑑定魔法を極めた、ランクSの魔法鑑定士なのである。
シモンの顔を見据え、モルガーヌは言う。
「シモン・アーシュ局長」
「はい」
「残念でしたわ」
「残念?」
モルガーヌは、いきなり何を言っているのだろう。
そんなシモンの疑問は、彼女の話ですぐに解けた。
「はい、コルボー商会が倒産したと聞いて、ぜひ当ギルドへ貴方をお迎えしたいと考えていたのですよ。専属の魔法鑑定士として」
「そうだったんですか。光栄です」
「うふふ、スカウトしようと手配をしている最中、ひと足違いで、ブランジェ伯爵に先を越されてしまいました」
「はあ」
「でも結果良しです。魔法鑑定士という狭い範囲内で仕事をするよりも、ティーグル王国民の為に働くという方が、アーシュ様にとっては良かったと私は思いますから」
「ええ、今の仕事は天職だと感じております」
「当ギルドも私モルガーヌ個人も、アーシュ様には大いに期待しております。ですから、出来る事ならば協力は惜しみません。何でもおっしゃってくださいませ」
もしもコルボー商会が摘発され当日、アレクサンドラが来ていなければ……
シモンの運命は全く変わっていただろう。
全然違う仕事をしているに違いない。
そして、エステルとも知り合う事も出来なかった。
不思議なめぐりあわせ、否、嬉しいめぐりあわせだと、シモンはしみじみ感じたのである。
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