第43話「思いがけぬ再会⑥」
「へぇぇ~、シモン君って、治癒魔法も使えるんだぁ。それも無詠唱? すっご~い! 私、知らなかったなあ」
アレクサンドラは、「ちくちく」言い、シモンをジト目で見つめた。
「後が怖い」シモンは、笑ってごまかすしかない。
「あはは……」
「うふふ、何か、まだまだ隠している
「は、はい、お礼をさせて頂こうと、何度もお名前をお尋ねしたのですが、シモン様は頑なに教えてくださらず、ご連絡先も告げられず」
「ほうほう、シモン君は名乗らなかったのね」
「はい! そして衛兵が駆けつけたのをご確認の上、その場を逃げるように立ち去られてしまいました。以上です、伯爵様」
リゼットの話が終わった。
アレクサンドラは破顔する。
シモンの救助行動に感心したらしく、手放しで喜んだ。
「うっわ! シモン君、すっごく、かっこい~!」
だが……
アレクサンドラは、再びジト目となり、シモンをいじる。
「そんな事があったなんて、私にも全然報告してなかったじゃない! 我が部下ながら、ほれちゃいそ~、シ・モ・ン・く・ん!」
「は、はあ……すんません、長官。ご報告しても、単なる自慢話になるのが嫌だったもんですから」
「うん、成る程、シモン君の気持ちも理解出来る! 話はよ~く、分かった! シモン君は乙女の危機を救った白馬の王子様、偉い!」
「ははは……俺が白馬の王子様って、違和感ありありっす。それに全然偉くないっすよ。当たり前の事しただけです」
「うむ、相変わらず、シモン君は奥ゆかしい!」
アレクサンドラは「全て了解した」とばかりに大きく頷いた。
そして、クラウディアを見据える。
「よっし結論! あらくれ男どもは最悪の鬼畜。でも! 助けてくれたシモン君に対し、素直にお礼を言わないのは別の話。今回の件に関してはクレアが悪い!」
「え~っ! サーシャ
アレクサンドラから断罪?されたクラウディアは、大いにすね……
すごもり前のリスのように、頬を「ぷくっ」とふくらませた。
しかし、アレクサンドラは容赦しない。
さすが猛獣使い?である。
「いやいや! あらくれ男が最悪なのは当然! だけど、助けてくれたシモン君に対する貴女の
「は、はい」
「少しは反省しなさい。ほら! クレア! ちゃんとシモン君にお礼を言って!」
「わ、分かりました、サーシャ姉」
「しっかりと、丁寧にね、クレア。それが助けて貰った淑女のたしなみでしょ」
アレクサンドラから、またも「びしっ!」と言われ、クラウディアは素直に従う。
「は、はい……シモン様、先日は
貴方⇒あんた⇒シモン様と呼び方が変わり……
クラウディアは、しっかりと敬語も使っていた。
「へぇ、クレアも、ちゃんと淑女が出来る子じゃない?」
と、感心したようにクラウディアを見るアレクサンドラ。
猛獣女子が淑女?
違和感がたちこめる応接室……
鳥肌が立つような微妙な空気の中……
空気を読んだシモンは、クラウディアとリゼットをいたわる。
「い、いや……ふたりとも、本当に、元気になって良かったね」
しかし、このひと言が展開を大きく変えた。
クラウディアが、嬉しそうに「にこっ」と笑ったのだ。
そして、おずおずとシモンへ尋ねて来る。
「シモン様」
「は、はい? な、何でしょう、クラウディア様」
「本当に元気になってって……あ、あの?」
「?」
「先ほど、シモン様が、私へおっしゃっていただいたのは……本当ですか?」
「先ほど? 俺が、貴女へ? おっしゃって?」
シモンはすぐに、クラウディアの言葉が理解出来なかった。
クラウディアは頬を紅くし、もどかしそうに、シモンへ迫る。
「はいっ! シモン様は私が可愛いと、はっきりおっしゃいました!」
ここで、可愛くないなど言えるはずはない。
それに、クラウディアが正統派美少女的に可愛いのは紛れもない事実だ。
口を開けば、がっかり令嬢だが……
そんな事は口が裂けても言えない……
「あ、ああ、可愛いよ」
「わお! 嬉しいっ!」
「ええっと……あの、嬉しいの? それぐらいで?」
「はいっ! 嬉しいですわっ!」
もしかして、チョロインフラグが立ったのか?
ここで魔導時計を見たアレクサンドラが、話のクロージングに入った。
「クレア、今日はもうそろそろ……貴女、お父様と一緒に帰るんでしょ? それで学校帰りに王宮へ迎えに来たんじゃないの?」
「あ、そうだった! お父様の事、すっかり忘れていましたわ」
「1階ロビーで騎士のアンヌさんも待っているし、また後日、シモン君とは、ゆっくりお話ししたら?」
「は、はいっ! すべてサーシャ姉の言う通りにしますっ! では、
「分かった。じゃあ、シモン君、クレア達を1階まで送ってくれる。そして君は、そのまま自宅へ帰って良し!」
「了解っす。じゃあ、クラウディア様、リゼットさん、ここを失礼して、1階へ行きましょうか」
シモンが辞去を促すと、クラウディアとリゼットも頷き、元気に返事をする。
「はい!」
「はいっ! シモン様、私リゼットからも改めてお礼を申し上げます。お嬢様と私をお救い頂き、本当にありがとうございました」
と、いう事で……
シモンはアレクサンドラを長官応接室に残し、クラウディアとリゼットを連れ、1階ロビーへ……
護衛の騎士アンヌに、主従ふたりを引き渡し……
ようやく帰途につく事が出来たのである。
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