第42話「思いがけぬ再会⑤」

 シモンのライトサイドな転職、王国復興開拓省勤務の初日。

 

 定時退勤となり喜び勇んで帰ろうとしたら……

 先日助けたクラウディア・ラクルテル主従に、シモンは思いがけぬ再会をしてしまった


 ……荒くれ男に当て身を喰らったクラウディアは当時、気を失っており……

 助けてくれたシモンの顔を見ていなかった。


 シモンは事件当時、侍女のリゼットとやりとりをしていた。

 王宮を歩くシモンを見つけたのは、顔を記憶していたリゼットであったのだ。


 というわけで、リゼットがあおり、クラウディアの高慢お嬢様魂に火が点き……大騒ぎ。

 わいわいやっているうちに、アレクサンドラが現場へ駆けつけ……という次第。


 結果、王国復興開拓省庁舎へ逆戻り。

 シモンとクラウディア主従は、5階の長官応接室に通されたのだ。


 というわけで、長椅子ソファに座った4人。

 アレクサンドラは、主従の雰囲気を見て、すぐに今回の事情を理解。


 リゼットだけに話を聞く……

 つまり、主クラウディアではなく、侍女へ『単独インタビュー』が得策なのだと判断したようである。


「ねぇ、リゼットちゃん」


「は、はい、伯爵様」


「今回の経緯いきさつ顛末てんまつだけど、最初から最後まで貴女から説明をしてくれる?」


「は、はい……でも」


 口ごもるリゼットの様子を見て……

 アレクサンドラは「ピン!」と来たようだ。


「大丈夫! クレアには、けして口をはさませないから」


 二ッと笑いリゼットに言い聞かせるアレクサンドラ。

 クラウディアが、泡を喰って猛然と抗議するが……


「ええええっ? ど、どうしてぇ、サーシャ姉! わ、私は喋っては、いけないのですかぁ!」


「シャラップ、クレア! とりあえず、黙って。リゼットちゃんの話を最後まで聞いていなさい」


「はい……」


 アレクサンドラから、ぴしゃり!と言われ……

 傲岸不遜ごうがんふそんな悪役令嬢、クラウディア・ラクラテルも形無かたなしである。

 

 麗しき美魔女アレクサンドラ・ブランジェ伯爵のド迫力。

 猛獣のような?悪役令嬢クラウディアを手なずける『らつ腕』を目の当たりにし……

 シモンは絶対に上司を怒らせまいと、密かに決意した。 


 リゼットは、主クラウディアをチラ見した後……

 恐る恐る、話を再開する。


「ええっと……この前のお休みの日でした。お嬢様と私はお天気が良かったので、お買い物を兼ね、お散歩に出かけました」


「ふむふむ」


「中央広場の露店をお嬢様と冷やかしていたら、いきなり冒険者風の荒くれ男5人が現れました」


「ほうほう、それで」


「お嬢様に、その荒くれどもが下品な言い方でちょっかいを出したのです。どこかへ一緒に行こう、思いっきり楽しもうなどと、笑いながら言っておりました」


「ふ~ん、それで?」


「は、はい。お嬢様は当然、そんな誘いなどきっぱりとお断りされました。すると男どものリーダー格が、事もあろうか、お嬢様にいきなり当て身を食らわせ、気を失われたお嬢様を、どこかへさらおうとしたのです」


「それは大ごとね。でもクレアと貴女が街中へ外出する際は、さっきのアンヌさんだっけ、彼女みたいな女子騎士の護衛が必ずつくはず。その時、護衛はどうしたの?」


 アレクサンドラの疑問に対し、リゼットは答えづらそうに口ごもる。


「え、ええっと……それは」


「……ああ、分かった! クレアが護衛なんか、超うざいわ! とか、わがまま言って、こっそり、ふたりで屋敷を抜け出したのね」


 クラウディアの声色こわいろまで使ったアレクサンドラの指摘は図星だったらしい。

 なぜならば、クラウディアが分かりやすく、反応しているからである。


「う、うう……」


 犬のように口ごもるクラウディアを、華麗にスルー。

 アレクサンドラは、リゼットへ話の続きを促す。


「それで? どうなったの? リゼットちゃん」


「は、はい。私も何とか止めようとしましたが、多勢に無勢。一方的に殴られまして、男5人にはかないませんでした」


「うっわ! ひど! さいってい!! 女子を殴るなんて、許せないわ、そいつら」


 荒くれ男の非道さに憤るアレクサンドラ。

 ここからが盛り上がると、リゼットの声のトーンが上がる。


「はいっ! でも周囲の方は、誰もが後難を怖れ、遠巻きにしているだけ。助けてはくれず、私が必死に追いすがった時」


「うふふ、リゼットちゃん偉い! そしてそしてっ! あるじを助けようと、貴女が追いすがった時、いよいよ真打ちが、ご登場! って感じ?」


「はい! 伯爵様のおっしゃる通りですっ! シモン様がさっそうと、ご登場致しました。そして、ひとにらみされただけで、5人の悪党どもは怖れおののき、お嬢様を離し、一目散に逃亡致しましたっ!」


「ほうほう、ひとにらみしただけで、5人の悪党どもが、一目散に逃亡かあ。上手く事態を収拾する為、シモン君は何か、特別な魔法かスキルを使ったのね。あざやかぁ!」


「はい! その上、無詠唱の治癒魔法でお嬢様と私の手当てまでして頂き」


「へぇぇ~、シモン君って、治癒魔法も使えるんだぁ。それも無詠唱? すっご~い! 私、知らなかったなあ」


 アレクサンドラは、ちくちく言い、シモンをジト目で見つめたのである。

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