第19話「超ライトサイドなビッグスカウト来た~!!③」
アレクサンドラが手に持って「ひらひら」させたのは、
3枚からなる、シモンの契約書。
『王国復興開拓省の職員』として雇用される契約書である。
シモンは、思わず声が上ずった。
「け、け、契約書!? み、み、見せて頂けますかぁ!!」
ご存じの通り、『契約書』に関して……
シモンには重いトラウマがあった。
前職、コルボー商会におけるで苦く辛い思い出があるからだ。
……あの時……自分は本当に世間知らずで未熟だった。
学費を自分で稼がねばならず、生活苦から借金まみれ。
精神的に追い込まれていて仕方がない状況ではあったが……
示された契約書の内容をろくに確認せず、安易にサインしてしまった。
結果、地獄のようなパワハラ特訓と
辛い日々が待っていた。
そんな
真剣且つ思いつめたような顔つきをした、シモンの要望に対し、アレクサンドラは
「OK! 構わないわ。存分に読んでね。全ての内容を隅から隅まで確認してちょうだい」
「ありがとうございまっす!!」
シモンはアレクサンドラから3枚つづりの契約書を受け取り、じっくりと目を通した。
トラウマの原因たる、あのブグロー部長の顔が浮かんだ。
部長が発した、ぴー音が連発で鳴り響く、えげつないNGワードも聞こえてくる気もしたが……
顔をぶんぶん横に振り、一切を
シモンは、何度も何度も契約書を見直した。
片や、アレクサンドラもけして
10分後、シモンは契約書の内容を全て暗記した。
……内容はアレクサンドラが告げた通りであった。
契約金が金貨10,000枚!!
給金は初任給が月額金貨300枚!
残業代、各種手当の支払いがはっきりと明記されていた。
年10%の昇給、住宅手当も何と! 毎月金貨100枚!
担当した地区の成績による出来高でボーナス、随時昇格あり等々も、詳細に記載されていた。
やはり、「通常の公務員とは全く違う給与体系だ」と、シモンは感じた。
当然ながら、永久に働くとか、わけの分からない天引きとか、強制的な生命保険の加入とか、使途不明的謎の社員共済費は皆無!!
つまり、奴隷の如く扱い、
『がんじがらめに縛る』ような内容は一切無かった。
そうそう!!
通勤によって発生する交通費、馬車手当ても使用、未使用にかかわらず毎月金貨100枚が支給される。
出張する場合は、距離による出張手当は勿論、現地までの交通費、宿泊費も全て支給。
コルボー商会のように『自腹』ではない。
つらつら考えた末……
シオンは顔をあげた。
「お待たせしました」
アレクサンドラは満面の笑み。
シモンが契約をOKすると自信を持っているようだ。
「どう? シモン君、納得した?」
「は、はい! も、もう充分ですっ!」
「何だったら、契約書を持ち帰って、じっくり読み返すとか、王国労働法に照らし合わせるとか、そうした上、後日の返事でも構わないわよ」
「……いえ、大丈夫っす。全部丸暗記しましたから」
「ええっ? ぜ、全部? ま、丸暗記? 3枚つづりの契約書を? たった10分で? まさかぁ、うふふふ、冗談でしょ?」
「いえ! 冗談抜きで全てを完璧に憶えました」
「へぇ! さすがね! 驚いたわ!」
「いやいや、それより、ひとつだけ質問して良いですか。その後にお願いもありますが」
「構わないわ。質問? 何?」
「ええっと、……俺の契約金が金貨10,000枚って? 先輩はどういう根拠で算出したんですか?」
「簡潔明瞭! シモン君が、もしも冒険者になったら、1年で最低でも稼げる金額をシミュレーションしたの」
「な、成る程」
「シモン君の実力ならすぐランカーになって、金貨10,000枚くらい、速攻且つ楽勝で稼げるわ。それを考えたら、契約金が金貨10,000枚でも安いくらいよ」
補足しよう。
アレクサンドラのいう冒険者のランカーとは、ランクB以上の上級冒険者の事をいう。
命を懸けた仕事ではあるし、ばくち的な要素も大きいが、腕利きの冒険者は楽に年間で金貨数万枚を稼ぐという。
シモンがコメントした通り、10,000枚でも王都に結構な邸宅を構える事が可能だ。
「それに、シモン君は魔法鑑定士もランクAの資格を取得したでしょ?」
「はい、少し前に」
「魔法鑑定士は、現在引く手あまたの人気職業よ」
「ですね!」
「うん! ランクCは身分証明書代わりでそんなに重くは見られない。ランクBなら、まあ普通に就職出来るけど、シモン君が取得したランクAなら冒険者、商業の両ギルドを始め、求人は五万とある」
「はい、認識してます」
「うふふ、だから契約金の金貨10,000枚は、
正直に本音を告げるアレクサンドラ。
シモンの、彼女への好感度はますますアップした。
しかし、石橋を叩きまくって、すぐには渡らないシモン。
慎重に言葉を戻す。
「ええ、俺、元々、王国国家公務員志望でしたし、大いに前向きに検討したいとは思います」
「大いに、前向きに、検討したいかぁ……正式契約まで、もうひと押しってとこね。でもシモン君は用心深いわね。普通ならほいほい飛びついて来るのに」
「いやいや、俺ご存じの通り、最初の就職でひどい目にあってますから。今回は慎重に行きたいっす」
「成る程……じゃあ、ひとつ提案。王都近郊における案件を遂行中の先輩幹部職員達に同行し、実際の仕事振りを見てみる? その上で改めて考えて、決めたら良いわ」
「現場の仕事を見学する。それ、素敵なご提案です。ぜひ宜しくお願いします」
「じゃあ、決まり。まずはその幹部職員を紹介するから」
という事で、アレクサンドラとシモンは長官室を出て、幹部職員の執務室へ向かったのである。
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