#59 大人の女子会【諸星カレン】

 終電の時間が近くなってきた梅沢中央駅は、まだ人通りが多かった。24時間営業のスーパーの看板、私がさっき夕飯を食べたファストフードのチェーン店の電光掲示板、大きなパチスロ店のネオンライトが眩しい。


「駅……電車乗るの?」

「ううん。まずはコンビニ」


 華音の手を握ったまま、私達は駅前のコンビニに入って行った。


「華音、好きな物買おう。女子会出来そうな飲み物とかおやつとか」

「あ、了解!」


 飲み物コーナーで私はコーラとオレンジジュース、華音はサイダーとぶどうジュースを買って(“よじかんめ”の旅行ではお酒を飲んだけど、このコンビニで年齢確認されたら終わるから、大人しくソフトドリンク)、おやつコーナーでポテチ、チョコ菓子、ビーフジャーキー、ジャッキーカルパス、スモークチーズ、いかくんをカゴに入れ込んだ。華音が「さっき全部先輩が奢ってくれたから」とここは全部払ってくれたので、素直に感謝する。私が巻き込んだのに、ありがとう。


「で、結構買ったね。ここからどうするの?」

「次はこっちだよ」


 私はまた華音の手を引いて、『梅沢中央ハイカラ通り』と書かれた道に入って行く。パチスロやゲーセンのネオンライトが光る中、その色はだんだんと怪しげな色に変わって行く。途中で右の細い道に入って……。


「え、カレン、これは……」

「もうすぐだよ。あ、ここ!」

「え……へっ?!」


 華音がびっくりしてる所が、また純粋で可愛いな、なんて思ってしまうんだけど。


 私達が辿り着いたのはラブホテル。このハイカラ通りも、ちょっと路地裏に行けばディープな大人の街になるんだってことは、実はつい最近知ったばかり。

 予備校時代に出会った、韓国ハーフの友達が、ここでラブホ女子会なるものを教えてくれたんだ。私も最初は「ラブホ=いかがわしい場所」だったからギョッとしたんだけど、ダブルベッドで広いし、照明の調節が面白いし、テレビ見れるし、お風呂可愛いし、その辺のホテルより安い気がするし、意外と良い所なんだなって知った。


 私達はズンズン入っていき、エントランス正面に置かれた電子パネルに手を触れる。空き部屋を探して、STAY宿泊を押して、受付で鍵を貰えば即完了。私の動きを横目に、華音はスマホを忙しなくいじったり、キョロキョロしたりしている。


「あ、そこのソープセットもらう?」

「あ、や、えっと……」

「貰っちゃお」


 オドオドするばかりの華音の手を再び取って、エレベーターへ。扉が開くと中から厚化粧の女性×後頭部のハゲてきたおっさんのカップルが腕組みしながら出てきたもんだから、華音は卒倒寸前になってしまった。慌てて支えながら部屋まで歩いてく。


「ごめんごめん。刺激強すぎたかな」

「こ、こういうとこ初めてで……か、カレンはもうご経験が……?」

「あー、ううん。ちょっと前に友達と一度、女子会しただけ」

「そうでしたか……」


 最初こそオドオドしてた華音だけど、フカフカのベッドに腰掛けたら慣れてきたみたいで、しばらくは部屋を探検したり、テレビをつけたり、照明をいじったりしてみた。汗をかいてきたからもらった石鹸でお風呂に入って、綺麗な体でベッドにダイブする。現在時刻、午前1時。


「華音、眠くない?」

「うん、大丈夫。なんかワクワクしてて目が冴えてる」


 コーラとサイダーで早速乾杯をして、ちょっと気の抜けてきた中身に2人で笑っちゃう。ベッドの上に溢さないように気をつけながら、ビーフジャーキーの袋を開ける。



「でさぁ〜巧とやっとご飯に行けたと思ったらさぁ、相談事だったの! しかも玲香に告ったって本当に何?! 私がモテそうだから女子の意見聞きたいと思ってたって何?! 前日にウキウキして食べたい物決めて、おしゃれだってしたのにさ〜もう〜」

「うんうん」


 パパと言い合いになったこととか、自分のモヤモヤを話し始めたら、話も手も止まらなくなっていく。ビーフジャーキーがあっという間に消えて行く。


「ごめん、私だけでビーフジャーキー食べちゃった」

「いいよいいよ。次何食べる?」

「うーん、ジャッキーカルパス」

「ジャッキー好きね……」


 個包装のジャッキーカルパスを次々開けては口に放り込む私を、華音は何も言わずに眺めていた。少しすると、近寄って肩を抱いてくれた。思わず涙が溢れる。……なんでだろ、華音と一緒で安心した気持ちと、玲香と会えない寂しさが一気に押し寄せてきた。


「なんでうまく行かないのかなぁ〜っ!」

「うん……」

「華音みたいに、両想いになりたいよぉぉ」

「えっ?!」

「……えっ?!」


 うっそ。華音、気づいてないの? どこまでピュアというか、鈍感というか……。


「華音、京汰のこと好きでしょ?」

「へっ……バレてる……?」

「だって華音、京汰と喋ってる時が1番良い笑顔してるんだもん。それに京汰も華音のこと好きだし」

「い、いや、京汰くんも私がアメリカ行ってから色々あったわけだし、高一の時の気持ちがそのままってわけでは……」

「華音が帰国して奇跡的な再会をして、気持ちが再燃したんでしょ。旅行の車乗る時のグループ分けでも、華音と一緒って分かった途端にあからさまに嬉しそうな顔してたしさ。学食でも、華音の近くに座りたがってるのはバレバレ。大貴も会長も分かってるよ」

「えええ……」


 そしたら、今度は華音が目に涙を溜め始めたからびっくり。


「か、華音?」

「私……どうやったら京汰くんともっと近づけるんだろう……」

「もうちょっと、華音がアピールしてみたら? 京汰も鈍感だし」

「京汰くん……」

「あ、あぁ。今のは忘れて。とにかくアピールよアピール」

「どうやって?」


 肩を抱いてくれたままの華音の腰に、私は両腕を伸ばしてギュッと抱きついてみた。


「こうやって、『京汰くん、かっこいいよね』とか、『京汰くんの○○な所、好きかも』とかさ」

「えーっ!!」


 華音は私の両腕を解かせた。「そんな大胆なこと……」と恥ずかしがる華音に言ってみる。


「深夜にラブホ泊まることに比べれば、大胆じゃないでしょ? 私応援してるから!」

「そ、そうかなぁ……」


 お酒を飲んでないのに顔を赤らめた華音は、さっきまでの私みたいに、無言でジャッキーカルパスを口に放り込んでいった。

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