第940話 ストレートティー

彼女はいつもの時間、いつもの席でミルクティーを注文する。うちの喫茶店の常連だ。本当は珈琲が売りなんだけど、彼女の口には甘いミルクティーが合っているようだ。まあそれはそれでいいのだけれど。

「ストレートティー」

「え?」

思わず聞き返してしまった。この1年、ほぼ毎日通ってくれる彼女は、ミルクティーの一つ覚えだった。それが今日はストレートティーだったからだ。

「何かおかしいですか?」

「いつもミルクティーだから少し驚いただけです」

「たまには甘くないの飲みたくて」

「わかりました」

ストレートティーを持っていくと、彼女は飲み始めた。だがテーブルにあった砂糖に手を伸ばして砂糖を入れた。カランッと音が鳴り、大人っぽい男性が店に入ってきた。その瞬間、彼女の顔が赤くなった。そうか、彼女は子供っぽいと思われたくなくてストレートティーを注文したのか。私はその光景が微笑ましくて、カウンターから見守っていた。

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