第885話 ギター少女

街は静けさが漂う。夜の心地良い風が肌に当たりながら、仕事帰りのサラリーマン達が行き交う。路上に一人の少女がいた。彼女はアコースティックギターを片手に持っている。そしてギターを演奏しながら歌い出した。路上ライブだ。誰も気に留めない。誰一人として彼女の演奏に足を止める者はいない。だが彼女は歌い続けた。誰かが足を止めてくれるまで歌い続けた。そして一人のサラリーマンが足を止めた。

「ありがとうございます。次はオリジナル曲をやりたいと思います。聞いてください。優しくして」

その曲の歌詞は、男に大切にされない女が優しくして欲しいという気持ちを書いた曲だった。その歌詞に立ち止まっていた男は、すぐにスマホで誰かに連絡を取っていた。

「もしもし。……いつもありがとう」

電話の相手はサラリーマンの妻だった。

「どうしたの?いきなり」

「いや、ふと急に言いたくなって」

彼女の歌は、人の心を掴み、変えていく。

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