第879話 イカリング

幼稚園の頃の事なんて覚えてないよ。君はそう言うけど、私は覚えているよ。


君のお弁当に入っていたイカリングを結婚指輪に見立てて、私の指に入れてくれた。そして結婚しようって言ってくれたんだ。


あれから私の初恋は、ずっと君だった。


「イカリングって……。そんな事したのか、俺」

「うん。したよ」

「いくら幼稚園児でも、もうちょっとロマンティックな指輪を作れないものかな」


そう言いながら彼は、恥ずかしそうに頭を抱えた。


「私は嬉しかったよ。イカリング」

「やめろ。それ以上言うな」


彼をからかうのが楽しくて、そのことをずっといじり続けた。

偶然同じ大学で再会した彼とは、よく一緒にいる仲になった。食堂で昼食を食べる。私は日替わりランチを注文した。


するとなんとイカリングが入っていた。タイミングが良いと思った私は、ニヤニヤしながら彼の指にイカリングをはめた。


「結婚しよう」

「やめれ」

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