第857話 メモリー

あの頃の話ばかり嬉しそうにして、君は未来の事を考えているの?

まあ昔が懐かしくなる気持ちはわかるけどね。でもそれは、年寄りの特権にした方がいいんじゃないかな。過去の思い出よりも大事なのは、これからの未来だよ。


願い事はたった一つ。

遠く遠く。どこまでも遠くへ行く事。

世界の果てを見たい。一番遠い所は、どうなっているのかをね。

そう語っていた君は、いつも輝いていた。

坂道をダッシュで一気に登っていく。上まで行くと息切れして苦しいはずなのに、どこまでも澄み渡った雲一つない晴れた青空を見ると、不思議と疲れている事も忘れてしまう。


ところで君は誰だい?

分からない。君の名前が思い出せない。

こんなにも鮮明な思い出の記憶があるのに、君の名前を思い出せない。


「ねえ。君の名前を教えてよ」


僕は目の前にはいない、僕の記憶の中の君に問いかける。

そっか……。記憶喪失の僕は、君の事も分からないんだ。

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