第808話 失恋制服

もう制服を着る事もないだろう。

私は涙を流しながら、そっとタンスの奥に制服を片付けた。


その制服は、憧れの先輩の制服だった。中学を卒業する時、先輩に第一ボタンを下さいと言ったが、すでに先輩のボタンは全てなくなっていた。すると優しい先輩は「じゃあこれあげるよ」と言って、自分の着ていた制服を私にくれたのだった。私はそれが嬉しくて先輩のくれた制服を時々、部屋で着てみたりしていた。でも先輩に彼女がいた事を先日知ってしまい、ショックを受けた。同じ高校に通って先輩に告白すると決めていたのに、その夢は叶わなくなってしまった。


「別れればいいのに……」


部屋の中で独り言を呟く。自分は本当に嫌な女だと思う。先輩の幸せを素直に喜ぶべきなのに。でも素直に喜べない。私は人間ができていないんだと思う。いっその事、先輩の制服を捨ててしまおうか。そんな事を考えたが捨てる事も出来ない。失恋制服は厄介だ。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る