第786話 籠師

加護を受けた籠には、聖なる力が宿るという。悪霊の持つ悪い魂を籠の中に入れると、聖なる力によって浄化されて天に召されるのだという。加護を持つ籠を背中に背負いし退魔の職に就く者。人はそれらを”籠師”と呼んだ。見習い籠師である鬼怒川市乃は、一人前の籠師になる為、修行の日々に明け暮れていた。

「市乃。お前は体術が苦手じゃな。体術は籠師の基本にして最大の武器であり盾だ。悪霊との戦闘において体術で後れを取っているようでは、すぐに命を落とすぞ。女だからといってそれを言い訳にするな。さあ立て。もっと走って体力をつけろ」

師匠である五代目松原三十郎は、とても厳しい男だった。女である市乃に対しても男と同等の訓練を課す。だが市乃は決して弱音は吐かなかった。幼い頃、市乃は悪霊に襲われているところを籠師に命を助けてもらった。その人のように誰かを助けられる籠師になる。それが市乃の夢なのだ。だから厳しい訓練に励む。

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