第657話 忘却の病
私は記憶が次第になくなっていく病に侵されている。最初は最近の記憶が曖昧になっていき、最後には全ての記憶を忘れてしまうそうだ。治療法はない。私にはどうしても忘れたくない記憶がある。それは家族との記憶だ。大切な家族の事を忘れてしまうなんて嫌だ。お父さんはいつも辛く落ち込んでいる私を笑わせてくれる。お母さんはいつも優しい。お姉ちゃんは口うるさくて喧嘩ばかりするけど、それでもなんだかんだで仲が良い。
「うっ……ううっ……嫌だよっ……忘れたくないよぉ……」
私は夜、入院する病院のベッドの上で一人泣いた。するとそこにやってきたのは、小さな男の子だった。
「君。こんな時間にどうしたの?」
「僕なら君を治してあげられる」
そう言って男の子は、私のおでこに頭をくっつけた。
「これで忘れないよ。僕の分も頑張って生きてね」
そう言って男の子は消えた。次の日、私の入院する病院で男の子が一人亡くなったらしい。
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