第619話 切子硝子はしつこい
「ねぇねぇ。ねぇってば」
「なんだよ、切子。うるさいな」
「お茶飲まない?」
「飲まないよ」
俺の買った切子硝子。江戸切子のコップは喋るのだ。毎日毎日、俺にお茶を勧めてくる。
「ねぇねぇ。ねぇってば」
「なんだよ」
「コーヒー飲まない?」
「飲まない」
コイツはコップとしての使命感をやたら持っているのか、とにかく飲めとうるさいのだ。
「ねぇねぇ。ねぇってば」
「ああー、もう。何だよ」
「水分が足りないと人間、健康に悪いよ。ということで……」
「あー、わかったよ。飲む。飲むから」
あまりにも切子がしつこいので、そんなに喉が渇いている訳ではないが、お茶を入れて飲む。
「ふふっ。あなたの唇と触れ合うとドキドキするわ」
「嘘つけ」
「うん。嘘♪」
お前が昔人間で、その魂が大事にしていた江戸切子に乗り移ったという事を知ったのは、しばらく経ってからだった。俺は少しドキドキした。
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