第609話 超能力者の代償

恋をすることが出来ない。

それがこの能力と引き換えに、俺に与えられた代償だ。俺に与えられた能力は、他人の心の声を聞く事ができる力だ。だからお世辞や社交辞令で成り立っているこの嘘だらけのクソったれな世の中に嫌気がさしている。彼女に会ったのは、ある3月の事だった。厳しい寒さも終わり、少し暖かくなってきた頃の事だった。


「人の心が読めるって苦しいね」

「……えっ?」

「私もそうだから……」


彼女も俺と同じ能力に苦しんでいた。俺はいつしか彼女に惹かれていた。彼女も俺の気持ちに気づいているだろう。


「そっか……。嬉しいな。ううん、別に嫌じゃないよ。って言わなくてもお互い分かるか」


彼女と付き合える事になった。だが互いの心の内が全て分かる恋愛は、長くは続かなかった。この人となら分かり合えると思ったが甘かった。俺はまた、見たくもない心の中の打算に満ちた女達に失望する。これが超能力者の代償である。

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