第585話 スイカ

昭和の時代。夏の猛暑が照り付ける中、小次郎は縁側でスイカをかじっていた。


「あっちぃ~」


すると誰かが庭にやってきた。ボロボロの恰好をした男だ。


「すみません。何か食べる物をもらえませんか……?」

「うーん。俺、料理できないし。ああ、そうだ。スイカ食べる?」

「ありがとうございます」


男は涙を流しながら「ありがとう、ありがとう」と言いながらスイカを食べた。


「このご恩は、きっといつかお返し致します。いつか必ず……」

「うん。まあそんなに気にしなくてもいいよ」


それから80年が経った。

小五郎には、孫ができて一人静かに余生を過ごしていた。ある日、誰かが訪ねてきた。


「お久しぶりです。その節はお世話になりました」


あの時、スイカをあげた男が当時の姿のままで男の前に現れた。そして言った。


「願いを何でも一つ叶えます」


小次郎は言った。


「もう十分だ。孫にも会えたから」

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