第584話 食べる読書

それはある日突然、書店に並んだ。


<食べる小説。新体験をあなたに>


小説を食べるというのは、どういう事だろうか。パッケージには、吾輩は猫である、銀河鉄道の夜などの名作の名前が書いてある。私はスナック菓子のようなその袋を手に取り、レジに並ぶ。ただのお菓子だろうか。


家に帰ってきて吾輩は猫であるの袋を破る。中はふわふわとした綿菓子だった。


「なんだ。ただの綿菓子か」


私は綿菓子を食べた。


すると――


吾輩は猫である。 名前はまだない。 どこで生れたか頓(とん)と見当がつかぬ。


頭の中に声が聞こえてきた。


「まさかこれ……オーディオブック!?」


そう。綿菓子を食べている間だけ、音声が頭の中で聞こえる画期的な読書体験なのである。


腹を満たせるオーディオブック。

これこそが<食べる小説>なのである。


しかしこの<食べる小説>

続きを読む為に大量のお菓子を食べなければならない。

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