第565話 恋する案山子

自由に動けることができれば、どれ程幸せなことだろう。

そうすれば君に触れる事ができるのに……。

僕の思いを伝える事ができるのに……。


僕は案山子だ。畑を鳥から守っている。そんな案山子の僕は、イケない恋をしてしまった。人妻を好きになってしまったのだ。その人は、僕が守っている畑の持ち主の嫁として嫁いできた人だ。彼女は、僕を見て「とても可愛い案山子だこと」と言ってくれた。


そして雨の日も雪の日も僕の所にやってきては、話しかけてくれた。


「今日は寒いね。寒い中、畑を守ってくれてありがとうね」

「今日は凄い雪だね。雪だらけじゃない。私が取ってあげるね」


案山子である僕に親切にしてくれる彼女に、僕はいつの間にかいけない恋心を抱いてしまった。そして畑の持ち主は亡くなり、彼女は未亡人となった。


「寂しいね。これからは一人で畑を守っていかないとね。いや、お前がいるね」


嗚呼、僕は彼女と話したい。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る