母の料理で何が好きかと言われたら、出汁巻き卵だと答える。理由は、いつも弁当に出汁巻き卵を入れてくれているからだ。忙しい中、朝早起きして私の為に弁当を作ってくれる。だから私は、いつも弁当を食べる時には、大好きな出汁巻き卵を一番最後に食べるのだ。

そんな母が亡くなった。私は料理をしてこなかった。だから母の味を受け継ぐ事が出来なかった。でも唯一、私が受け継いだ母の味。それが出汁巻き卵だ。

それから私は、良い出会いがあって結婚した。料理なんてしたことがなかったから苦労した。こんなことならもっと早くに、母から色々教えてもらっておくべきだったと後悔した。

でも――

私は唯一、母の作る出汁巻き卵だけは作れる。

子供ができた。お弁当には出汁巻き卵を入れてあげる。子供からは、出汁巻き卵が一番美味しかったと感想を聞かせてくれた。

「やっぱり母の味は世界一だ。敵わないな」

私は独り言を呟いた。

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