第343話 焼肉店

母は男を作って出て行き、父は働かず酒を飲んだら僕に暴力をふるう。

もう三日何も食べてない。神様、一体僕が何をしたというのですか。公園の水でも飲もうと思い、公園に向かっていると焼肉の良い匂いが僕の鼻孔をくすぐった。なるべく考えないようにしていたのに、その匂いが余計に空腹感を思い出させた。僕は店の前で倒れてしまった。店の中に運びこまれ、事情を聞かれ、恥ずかしながらも三日間何も食べてない事を話した。すると店主は、焼肉を腹いっぱい食べさせてくれた。僕は涙が出た。こんなに美味しい焼肉を食べたのは初めてだった。


それから十年が経ち、僕は全国にチェーン店を持つ飲食店経営者として成功した。そして小さな個人焼肉店の経営がピンチだと知り、出資した。


「どうしてこんなに良くしてくれるんだい?」


店主が不思議そうに言う。


「お久しぶりです。あの時はお世話になりました」


そう言って僕は、深々とお辞儀した。

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