第324話 落とし物

道を歩いていると老人がすれ違いざまに僕の背中をバンッと叩いた。


「これ、そこの若いの。落とし物だぞ」

「えっ?僕、何か落としましたか?」


僕は、財布とスマホを鞄に入れて手に持っている。何も落としていないはずだ。


「落ちて良かったのぉ。ホッホッホ」

「僕は一体何を落としたのでしょう?」

「ん?聞きたいか?」

「はい」

「ワシにはな、憑き物が見える。お前に憑いていたのは、長髪の女の霊じゃ」

「女の霊……」

「覚えがあるじゃろう?」

「……はい」


覚えがあった。友達数人で面白半分で夜中、心霊スポットに足を運んだ。僕はそこで女を見た気がした。だが特に何も怖い目には、遭わなかった。


「ふむ……。若いの、命拾いしたのぉ。怨念の強い女じゃった。ワシが落としてやらなければ、明日には死んでおったかもしれんの」

「ええ!?」


そう言うと、老人は振り返る事もなく、ゆっくりと歩いていった。

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