第237話 満月の夜

満月の日は、出産率が上がるらしい。そんな話を聞いたことがある。そんな事がありえるのかどうかは、私は知らない。だが出産とは、とても神秘的な事だ。そんな関係性があったとしても何の不思議もない。

満月の夜、私は生まれた。私が自分の体の異変に気付いたのは、15歳の十五夜の日だった。綺麗な月だ。あの月に触れてみたい。そう思ったら体が宙に浮いた。空を飛べた。私は、どんどん月に近づいていく。


「綺麗……」


それと同時になぜか、月に帰らなくては……と思った。私の故郷は、地球ではなく月なのだ。なぜかそんな確信めいた事を思った。


「茜?茜?聞いてるの?」

「…えっ?ああ、うん」


私の体は、ここにあった。

でも意識は間違いなく、月を目指していた。なんだかとても怖くなった。それは、今まで生きてきた自分の人生を否定してしまうようで。


今日は満月。

私はまた月に呼ばれているような気がしている。

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