第130話 丘の上で溶けた蜃気楼

いじめを苦に自殺して死んだはずの君の面影を見た気がして、僕は急いで丘の上まで走った。


「君に最後、どうしても言えなかった言葉がある。ごめん……。僕がもっと早く気づいてあげていれば……君は自殺なんてしなくて済んだかもしれないのに……。本当にごめん」


後ろを向いた君はこちらを振り返り、僕を見て黙って微笑んだ。

僕は泣いていた。これは罪の意識で泣いているのか、君に会えて嬉しくて泣いているのかどっちなのか分からない。いや、どちらでもあるのかもしれない。涙で視界がぼやけてしまい、君の顔がはっきりと見えない。


「あなたのせいじゃないよ。悪いのは私。だから自分を責めないで」


彼女の声が聞こえてきた。

僕は彼女の元に走っていき、彼女を強く抱きしめようとしたが、僕の手はスッと彼女の体をすり抜けた。


「もう行かなくちゃ。……ありがとう。元気でね」


丘の上で蜃気楼は、溶けてなくなった。

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