第28話
龍斗は、一番乗りで会場に入った。
組分けのくじ引きは、受付順にひくことになる。龍斗は、一番にくじを引きたいと思っていた。全ての運命を、自分で選びたかったのである。
続々と参加者が集まってくる。見知った顔に、初めての顔。龍斗にとっては、一人を除いて誰もが「その他」だった。
二十分経ち、その一人がやってきた。纐纈太陽である。
太陽は部屋に入ると、端っこの席に座って本を広げていた。保護者はいなかった。
「おはようございます」
低い声が響いた。百合草八段だった。今回も、ゲスト棋士として会場にやってきた。
龍斗と目が合った。軽く、頭を下げる。百合草は、少し口角をあげた。
太陽は焦っていた。
久々の大会。久々の実戦。鼓動が早くなり、腕や指先が硬くなっていた。
緊張している。
これまでの大会とは違う。ライバルたちが自分に注目しているのが分かる。
個人指導では、まだ百合草に勝てていない。自分がどれほど強くなっているのか、太陽には全くわからなかった。
名前を呼ばれ、くじを引く。同じリーグになったのは、名前を知らない人ばかりだった。
最近様々な本を読んで、太陽はようやくプロ棋士になるための道のりを理解した。奨励会に入って、年齢制限がある中昇段して、三段リーグの上位二人に入って、四段にならなければならない。たとえ小学生名人でも、プロになれるとは限らない。
県大会で負けているようでは、駄目なのだ。
時計の使い方もわからなかった初参加から一年。太陽は、負けられない勝負の時を迎えていた。
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