第489話 I wish
愛紗は、ひとあしお先に庄内駅に着いて。
2番線ホーム。駅舎の対面側に1両だけの黄色いディーゼルカー。
ながーいホーム。15両くらい停まれそう。
周遊券を運転士さんに見せて
愛紗は「ありがとうございます」と、会釈。
運転士さんは、日焼けの顔でにっこり。歯が白い「おー、東京か。お気をつけて」
愛紗もにっこり。
菜由のは大岡山だから・・・・小田原発になってて。「あんまり遠く感じないのかな」
端っこがコンクリート、中がわが砂利のホームに下りて、ふたり。
愛紗は「箱根って書いてあれば違うかも」小田原ー東京って100kmないけど
東京って遠く感じるのかな・・・なんて(^^)。
跨線橋の階段は、コンクリート、そのままで
作られてから変わっていない、そんな感じ。
雨が降ると滑りそうな、つるつるしたコンクリートの板で
よく、道の脇にある溝に乗っている、四角い孔が開いている蓋と
似ている質感。
滑らないように、愛紗は丁寧に昇っていって。「見晴らしいいね」と、
湯平のほうを見た。
カーブした線路の脇に、木造、杉板かなにかの壁の保線小屋。
庄内保線区、と書いてあるのだろうか。
黄色く塗られたトロッコや、小型のディーゼル機関車。
ずっと昔から変わっていない。
元々は、庄内駅もその・・・杉板っぽい壁の建物でスレート葺きだった。
そこの1番線ホームのとこに、カナリアの籠を吊るして
伯母さんは住んでいた。
その頃は伯父さんも一緒だった。
そんなことを思いだしながら、橋を渡って向かい側。
下り階段の方が滑りそうで怖い。「雨の日は大変ね」と、思う。
幾度か、ここで雨の日に滑った記憶がある(^^;
慎重に、一段づつ降りていくと、駅名板が見える
しょうない
庄内
SHONAI
と、あるが、新しいもので
古いものは、木で出来ていて白黒の手書き文字。
趣があって良かったが、駅を建て替えた時に新しい
カラーのものに変わっていた。
古いのを貰って行こうかな、と思っていたけれど
かなり大きくて。運ぶのがタイヘンそうだから(^^)。
写真を撮って、諦めた。
そんな思い出がある。
「あの駅名板、どこへ行ったの?」と、愛紗は辺りを見回しながら
階段を下りて。
改札口のところに行った。
伯母さんは、にっこり「やあ、おかえり」と。
愛紗は「ただいま」と、自然にそんなことを。
ながーいホーム。彼方のレールはカーブしていて
青い信号が灯っている。
単線だけど、構内からすこし先までは複線みたいに見える。
ホームのはずれにある杉の電柱と、琺瑯の駅名表示。
青い琺瑯に白い文字で
し
ょ
う
な
い
と、ある。
秋田と間違えそうだけれど、あちらには駅が無いので
ふつうに庄内、である。
伯母さんは「友里恵ちゃんたちは?」と。
白髪、銀縁めがね。にこにこ。のどか。
がっしり型。すこし、足を開いて。
ここのとこ、だんだん・・・おばあちゃんっぽくなってきた。
それを愛紗はステキだと思った。
安心できる、おばあちゃん。
そんな人に早くなりたいな、と思う。
菜由は「友里恵ちゃんは、由布院の駅のそばの大きな犬に呼ばれて」
と言うと、伯母さんは「犬好きなんだね」と、優しそうに笑って。
駅前の砂地のロータリーに町内バス。マイクロバスが回ってきて
出て行った。
ほかに音がしない、静かな・・・・駅前である。
愛紗は「あ、宿賃」
伯母さんは「そう?いいのよホントに」
菜由は「愛紗はいいですけど・・・私達、4人じゃちょっと額が大きいし」
と、気遣う。
伯母さんは、笑って「そう?じゃ、友里恵ちゃんが着いてから。みんなで。
えーと、いくらかなー」と、駅のコンピュータ端末で見た。
KKRは、関連だから解る。便利だな、と思う愛紗だった。
愛紗の身の振り方について、何も聞かない伯母さんが
有難いと思っているけど・・・ホントに聞かないでいいのかな?
なんて、ちょっと思ったりする。
聞かれても答えられないんだけど。
理沙を見て、機関車のハンドルを握って。乗ってみたくなった、なんて
子供っぽいけど、それがホントの気持・・・・なのかな。
遠い昔に、どこかに・・・憧れがあったのかもしれないんだけど。
機関士なんて、なれっこないから。
そう思ってたけど、理沙を見て・・・・・。
試してみたいと思った。
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