第462話 momo

理沙は、その空想から、愛紗に「あたしも、休み取れたら行こうかな、弘前」


愛紗は「心強いです。」と、簡素に。にっこり。



理沙は「でも、休み取れたらね。まだわかんないけど。どうだったかな?勤務」



愛紗は「わかります。わたしも乗務員ですから。」



バスは、結構休みを取り易いとは言うものの・・・長い休暇だと

人員に余裕のない営業所だと、ムリ。



鉄道も同様だと思う、と愛紗は類推した。



それで、笑顔で答えた4階の回廊。

遠くに九重連山が、夜の闇に稜線だけを映す・・・・旅の夜。







友里恵は、由香と一緒にエレベータに乗って1階へ。そこから

温水プールの脇を通って、パーキングの扉を通って。



「あ」



由香「なに?」




[スリッパじゃん」と、友里恵。



由香「あ、そっか。フロントでゲタ借りてけば」



友里恵「お肉もって?」




由香「でも、ここのキッチンで貰ったんだから」



友里恵「まあ、いっか」


元来た廊下を戻った。天井が高い1階。壁はプラスターで、凸凹のある吹きつけ。

絨毯は、こちら側はフェルトの簡素なもので「学校みたいだね」と、友里恵は

思いだす。



由香は「ああ、学校。懐かしいな」


友里恵と由香が一緒だった、小学校、中学、それと、高校。

どこかに、こんなフェルト敷きの床があった。


どこだったろう・・・・?なんて、由香は思う。



幼稚園だったかな?なんて思いながら

廊下の角を曲がって、プールバーのところで


友里恵は「プールバーって言うからさ、水着で入るのかと」


由香「プールは隣だって」



友里恵「そうそう(^^)、ここ、温水プールもあるんだね。温泉だからかな。」



由香「泳げば良かったか」



友里恵「まーね。また今度」




とコトと・・・歩いて、フロントの前に。



友里恵は「あ、ネロ、ゲタ貸して」



フロントにいた、ネロは(笑)「はい、どうぞ」



ネロしかいなかったので、ビニール袋は気にせずに済んだ。



自動ドアのエントランス。その脇にある下駄箱で、友里恵はスリッパを

下駄に履き替えて。「間違えないよーに」と、端っこに置いた。


由香「なんで?」



友里恵「だってさ、水虫移ったら困るじゃん」



由香「下駄でも一緒だよ」



友里恵「なーるほど」




赤い鼻緒の細身の下駄は、さっぱりとしてかわいらしい。

それで、カラコロと表に出ると、けっこう涼しかった。

裏テにまわって堤防へ。ももちゃんのお家に・・・行こうと。



月明かりで、ぼーっと、由布岳が見える。



友里恵は「♪さーうんど、おぶ、みゅーじーっく♪」



由香「名作か」



友里恵「うん、メイドさんが奥さんになっちゃう話」



由香「そうだったか?」



友里恵「違ったっけ」と、笑いながら「あんな山を登っていくでしょ」




由香「ああ、山登って逃げるんだよね。確か」




友里恵「シャッキントリから?」



由香「そうだったか?」と、冗談半分。


辻馬車のお家の脇をとおって、ももちゃんのお家へ・・・。




「ももちゃーん」と、友里恵が呼ぶと


遠くでももちゃんが 「わん」





あ、いたいた・・・と、友里恵は小走りに土手を。




ももちゃんのおうちへ。


駆け下りていくと、ももちゃんは立ち上がって、喜んで。



友里恵の手を、ぱくり。


友里恵は「これ、お肉はこっちだって」



由香は笑って「おいしそーなんだろ」




友里恵「処女のお肉」



由香「お肉って書くと、どこのお肉かなんて思うよな、読む人」



友里恵「なんか、危ないか」



由香「ハハハ」




友里恵は、ももちゃんにステーキのお肉をひとつ、ふたつ。


ももちゃんはおいしそうに食べている。でも、晩ごはんの後だったのか

ビニール袋の方を、欲しそうにはしていない。




友里恵は「よしよし、賢いね」と、ももちゃんの頭を撫でて。


[明日、帰るね」と、言う。



友里恵の頬を、涙がつたう。





由香「泣くな。また来るよ」と、声が少し震えている。




友里恵は、涙を拭って、こくり。

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