第456話 EF81

理沙は、203号室の鍵を開けて、部屋に入る。

4階と違い、和室の2階は普通のホテルだ。


鍵は同じだけれど。


そこが、理沙のお気に入りである。


かちゃり。


シリンダー錠を開けて。


電灯のついている部屋に入る。その辺りはホテルらしい気遣い。



カーテンは閉じられている。



理沙は、浴衣に着替えながら、ふと思う。「愛紗ちゃん、青森行きか・・・」



どんな列車で行くんだろう、なんて。


機関士らしく、その運転席を想像した。



大きなバーニア式、主幹制御器は右側にあって。

その下にパンタ・レバー、主電力。 右、動作位置。

左に、上下。機関車単弁、編成制動弁。

左の膝の前に警笛。


緑色の鉄板の計器板、架線電圧、取り込み電圧、速度計。

元空気ダメ空気圧、つりあい空気圧。電動機電流計、2指針。


背中で、ブロアーが回っている。



正面の上に赤い、防護スイッチ。

右側に無線機・ハンドマイク。

左前にATSボタン。



「トーサンバン、発車、進路、第一、東北!」

指さし呼称。


13番ホーム。先頭の電気機関車。赤いEF81。



列車無線が入る。 21時5分。


「東北、1列車機関士、1列車車掌です、どうぞ」



ハンド・マイクを取る。PTTボタンを押す。



無線に返答。「1列車機関士です、どうぞ。」



車掌は「1列車発車!」



返答。「1列車発車!」



汽笛を鳴らす。




ふぃー・・・・。DE10 1205によく似た音。



やや甲高い、物悲しい音。




「出発進行!」と、東北・第一出発信号機を指差し呼称。

白い手袋、左手。指2本。




主幹制御器を、じわり、1ノッチ。・・・・。



機関車単弁は残したまま。


腰に、モータのトルクが掛かる。


床下で、電動機が唸る。



ひゅぅ・・・・・・。



編成は重い。14両+1両。



ごとり、ごとり・・・・と、重いEF81型機関車は

赤いボディを揺らしながら、レールを踏みしめる。






仕業票を確認。右手の人差し指で。「次は尾久、通過!」


尾久は、操車場の脇を通る、各駅停車のホームだ。


特急はふつう、ホームは通らない。



寝台特急「はくつる」青森行き・・・。



上京するとき乗ったのは「あけぼの」だったかな・・。

なんて思って。



電気機関車の免許も持っていないのに、と

ふと我に還り、頬を赤らめる理沙だった。



まだ、着替えも途中だった。



「でも、いいなぁ、東北夜行・・・か。」




電気機関車の機関士も、なってみたいなぁ・・・・なんて。



愛紗の気持もよく判る。



乗ってみたいんだよね。



リクツじゃないよね。



そう思う。


理沙だって、おじいちゃんが機関士で無かったとしても・・・・。

乗りたくなった、かもしれなかった。









その愛紗たちは、1階のレストランでのんびり、焼肉ディナー。



ちょっと大きめのステーキ肉。




「いっぱいあるなー」と、友里恵。



由香「がんがん食えるぞ」



愛紗「美味しいね。いっぱい食べられる」



菜由も、ぱくぱく。



竹の割り箸が、ちょっと珍しい。丸く削られていて、2本になっているが

割るところだけ四角いままで。

どうやって丸く削るのだろう?


なんて、愛紗はふと思ったり。




「ごまだれもおいしーね」と、友里恵。




由香は「甘くてね。ポン酢もおいしい」



菜由は「理沙さん、ざんねーん」




愛紗「待っててあげれば良かったね」



友里恵「気を使ってくれたんだよ」



由香「そうそう。待たせちゃ悪い、って。いい人だね。休みなのに

わざわざ来てくれるなんて」



じゃが芋の輪切りを、お箸でつついて。

半分にして、ぱくり。



これは、塩がいいか、なんて。



お澄ましではなく、お味噌汁は赤で、お肉によく合う。



友里恵は「理沙さん、愛紗と一緒に里帰りとか・・・。」




愛紗は「まさか」と、笑った。




由香「ガイドと違うもん」



菜由「そだよね。機関士は忙しいし」


金曜日とはいえ、会員制のホテルだから

そんなに、混雑はしていない。

金曜の午後から来る人は少ないのだろう。

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