第430話 かわいい

その頃・・・・335D、大分ゆきに乗っている友里恵たちは

干し柿を食べながら、水分峠にさしかかる

田園風景の中を、暮れ掛けた空の下。

キハ31、ディーゼルカーに揺られて。



かたたん・・・かたたん・・・・。



由香は「長閑で、いいねー。」


干し柿の種を、どうしようかな?なんて

考えながら。



友里恵は「昔、良くあったね。雑誌でさ

「かわいいおにぎりの食べ方」


なーんて。あったの。覚えてる?」




由香「うん、小学生だったかなぁ。星占いの雑誌とか」



友里恵は、ちょっと笑って「似合わねー。」




由香は、すこし赤くなって「あたしが買って読んでたワケじゃない」



友里恵「万引きして読んだとか」



由香「するかっ!」



パティは、ハハハ、と笑って「星占い、好きな子いましたね。そういえば」




がごーん、がごーん・・・・と、キハ31は鉄橋を渡って。


友里恵はちょっと思い出す。


・・・・指宿に行く時、ここを「ゆふいんの森」で眺めたんだっけ。



旅情、なのかな。




由香は「思い出してた?」



友里恵「うん。」





パティ「何をですか?」



友里恵「一週間前のこと」




パティ「旅愁、ですか。」




友里恵「旅っていいね。」



由香「うん・・・・。」




すこし、しみじみとしながら。



ディーゼル・カーに揺られて。



大分の旅は過ぎてゆく。





友里恵は「かわいい、って言われたいって・・・

ふつー、だと思ってたけど。小さい頃」



由香は「愛紗のこと?」




友里恵「そう。愛紗みたいに、ずーっと「かわいい、かわいい」

って言われ続けてると、可愛くしてるのに疲れるのかな」




パティは「愛紗は、そうなんですか」



友里恵「うん、なんか、バスガイドだけじゃなくて

ドライバーになりたいのも・・・そんな感じだし。

故郷で、お嫁さんにいかされそうだから逃げてきたとか」



パティ「うーん・・・・好きな人とじゃないと、やっぱり」




由香「それかもね」


友里恵「まー、可愛い子には可愛いなりの悩みがあるってコト」



由香「カワイクない子にはそれなりの」


友里恵「うるさい」



由香「ダレがオマエだと言った」



友里恵「ハハハ」


パティ「友里恵、可愛いですよ」



由香「イヌ系な。」



友里恵「ネコ派だってば」



楽しく、みんな笑いながら・・・・。









愛紗は、275列車の発車を待っている。

旅の最後の日・・・・は、明日だけれども。

帰る日、と言うのは

なんとなく・・・旅、と言うか

旅行、のように


旅程をきちんとこなす日、のような。そんな気がして。



これまでの旅を振り返っていて。





・・・・・一体、何をしにきたのだろう(^^;



と、思っていた。


でも、みんなのおかげで凹んでた気持からは

立ち直れた。


・・・・・それだけでも良かったな。




・・・・・みんな、ありがとう。



そんな風に、心の中でつぶやきながら。





由布院駅のアナウンスが聞こえる。



ーーー大分ゆき、普通列車は1番線です。

間もなくの発車になります。ご乗車のお客様は

お急ぎ下さい。





車掌補・文子は

2号車のデッキの所で、乗降確認。

LEDのカンテラをぶら下げて。


ステンレスの直方体、と言う言い方が一番近いけれど

見た目は、石油ランプの頃と同じもの、のように見える。


懐中電灯のようなレンズと反射鏡が左右についていて

上に持ち手が付いている。


左右から見て、光が見えるように工夫されている。



乗降が終わったら、それを掲げる。


右カーブしている由布院駅なので、機関士からも最後尾の車掌からも

よく見えるように。




出発表示灯は、点灯している。


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